柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『恋する♡ヴァンパイア』  日本映画を悪くしている戦犯がここにいる。女性がみんな恋愛のことしか考えていないと思ったらおおまちがいだ(柳下毅一郎) -3,388文字-

FireShot Screen Capture #011 - '映画『恋する♡ヴァンパイア』公式サイト' - love-vampire_com

 

恋する♡ヴァンパイア

監督・脚本・原作 鈴木舞
出演 桐谷美玲、戸塚祥太、モン・ガンルー、大塚寧々、田辺誠一、柄本明、イーキン・チェン

 

face松竹のプロデューサー宮島秀司が「恋する♡アジアプロジェクト」を立ち上げ、その第一作。原作・脚本・監督をつとめた鈴木舞はもともと俳優志望で北京戯劇学院に学び、そこではじめて脚本を書くことを覚えて書いたオリジナル脚本が「恋するパンダ」、それを改稿して生まれたのが本作『恋する♡ヴァンパイア』だそうである。おまえら恋以外にやることはないんか! 日本映画を悪くしている戦犯がここにいる。おまえらにはっきりと言っておくが女性がみんな恋愛のことしか考えていないと思ったらおおまちがいだ。みな恋愛以外にも大事なこともあれば関心事もある。「F1層」「スイーツ」「イケメン(笑)」とか言ってるおまえたちが女性を軽んじ、日本を貧しい社会にし、映画に貧困をもたらしているのである。しかるに本作は、ぴあ、第一興商その他各社の協賛を得て映画製作にまでこぎつけてしまう。まあこれが現代日本映画ということだ。本当にこれでいいのか宮島秀司。まあそういうわけで……

 

 

伴キイラ(桐谷美玲)は台湾人ヴァンパイアと日本人ヴァンパイアのあいだに生まれたヴァンパイアのハーフ(て人間とじゃないのか!?)。人間との共存共栄を志向する両親のもとですくすく育ったが、ある日「人間との共存なぞまやかしだ!」と憤る武闘派ヴァンパイアに両親が惨殺され、横浜でパン屋を営む祖父(柄本明)の元に引き取られる。祖父はパンの修行をするためにルーマニアにわたったときに吸血鬼の祖母と運命的な出会いをしてヴァンパイアになったのだ。ヴァンパイアはもともと不老不死の存在であるが、祖父が発明したアンチ・アンチエイジング薬によってヴァンパイアは血の渇きを抑え、そして人間と同じように年をとっていく。「人間と同じように年をとって死ぬべし」という祖父の信念にしたがって、キイラと叔母夫婦(大塚寧々と田辺誠一)はアンチ・アンチエイジングを飲んで年をとっている……

いやちょっと待っていただきたい。アンチ・アンチエイジングがなければ年をとらないんだとすれば、キイラはどうして赤ん坊のままじゃないのか。なんで普通に十三歳くらいの少女になってるんだよ! この映画、なぜか(というか「恋する♡アジア」だからなんだと思うが)、台湾からはじまり、最初の20分ほどは中国語のナレーションに字幕がつく。誰に見せたいのかもわからず容赦なく眠気攻撃をかますこの幼年期の場面でキイラは幼なじみの少年と普通に一緒に遊んでいるのである。だいたいこの映画の吸血鬼、太陽の光も十字架も平気、銀とニンニクは苦手らしいが、別に普通の人間と何が変わるわけでもない。運動能力は人間ばなれしているうえに個々に特殊能力も持っていて、祖父はワープ能力、キイラは他人の記憶を消す力……ってなんという適当な能力なんだ! というかそういうボーナスがあるくらいで吸血鬼のデメリットなんか何もなさそうだし、なんでわざわざ人間と同じになりたがるのかさっぱりわからない! 適当に思いつきで設定を付け加えてるようにしか見えないんだよ!

 

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tags: イーキン・チェン モン・ガンルー 大塚寧々 宮島秀司 恋するヴァンパイア 戸塚祥太 柄本明 桐谷美玲 田辺誠一 鈴木舞

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