柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『BLACK ROOM』 製作監督脚本原案撮影編集照明美術主演の「一人映画」の狂気の愛・・・は、ただのキモイ人だった (柳下毅一郎) -3,515文字-

168211_01

 

BLACK ROOM

製作監督脚本原案撮影編集照明美術主演 辻岡正人
主題歌 キャラメルパンチ
出演 夕樹ゆう、朝霧涼、手塚眞、愛染恭子、団時朗、御茶漬海苔

 

faceA MASATO TSUJIOKA WORLD

辻岡正人は2000年、塚本晋也監督の『バレット・バレエ』に登場するチンピラの一人として銀幕デビューを果たした。その後も『六月の蛇』から新作『野火』まで多くの塚本晋也作品をはじめ、『クローズZERO』から『盲獣VS一寸法師』まで多くの出演作を数え、まずは順風満帆な俳優人生を送っている。一方で『バレット・バレエ』の現場で監督脚本撮影主演特殊メイクとなんでもこなす「一人映画マシーン」塚本晋也から大いに刺激を受けて、2003年に監督脚本主演を兼ねた自主映画『ロスト・バイ・デッド』を製作。以後も塚本イズムにのっとって自主映画の製作を続けているのだという。というわけで作られたのが本作なのだという。嗚呼、またしても知らなくてもいい映画のことを知ってしまった……

この映画、タイトルの下に「MASATO TSUJIOKA WORLD」と出るとおり、どこからどこまで辻岡ワールドで、辻岡正人ならぬこの身にはなんで作ったのかすらよくわからない。手塚眞をはじめとする妙に豪華なキャスト陣は俳優としての辻岡正人のコネクションゆえか。そうやってひろがりゆく辻岡ワールド、ついに映画の本場カンヌ国際映画祭に殴りこみ、「マルシェ・デュ・フィルム部門出品」! あの~「マルシェ」というのは文字通り「市場」でしてお金を払えば誰でもブースを買える映画即売場のことである。たぶんどこかのバイヤーが扱ってカンヌで試写やったとかって意味だと思うんだが、まさかそれを「出品」と主張する映画が登場しようとは思わなかったが辻岡ワールドではそれも認められてしまうのだ!

 

 

さて、辻岡正人が演じる主人公マリオは某ブロードバンドTV局につとめているダメ社員。彼は同じ局で働く美女清住(夕樹ゆう)に恋していた。思いあまったマリオは清住を誘拐、監禁して思いをとげようとする……という「完全なる飼育」シリーズみたいなソフト・エロ映画(ただしエロ抜き)なのだが、これが「カンヌを震撼させたジャパニーズ・インディーズ! 愛は憎しみを超えるのか!? 憎しみは愛を超えるのか!?」みたいなことになってしまうのが辻岡ワールドなのである。映画はほぼ辻岡氏が作りあげた監禁部屋での辻岡正人と夕樹ゆうのやりとりで進むのだが、辻岡正人演じるマリオがまったく意味不明にキチガイすぎてひたすら口をあんぐりあけたまま。こういう話だと当然二人の演技合戦みたいなことになるべきなんだけど、辻岡氏の考える狂人演技がなんか凄すぎて……なお、カメラがやたら無意味に傾いたりするのも辻岡テイスト。

清住には同じ会社につとめる神堂(朝霧涼)という恋人がいた。深くスリットが入った赤いタイトスカートというおよそTV局員らしからぬ恰好の清住がビルの屋上をダクトをまたぎながら歩いていると、そのあとを神堂がつかず離れずで追ってくる。二人きりになったところで抱きあって

「仕事が終わったあといつもの場所で。とっておきのプレゼントを用意したから」

 秘密の逢瀬なのかもしれないが、なんでビルの狭い屋上を歩いていくのか。そもそもこの二人がつきあっているのは社内でもバレバレで、神堂は部長(手塚眞)から

「おい、神藤、おまえ、清住と結婚するんだろ?」

 とか言われてるくらいなのだ。ともかく二人で水上バスに乗ってまったりデート中、マリオから電話が入ってくる。

 

443f2910ab9081e6c5fb7aa8c00ee84d2

(残り 2033文字/全文: 3561文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

tags: キャラメルパンチ 団時朗 夕樹ゆう 御茶漬海苔 愛染恭子 手塚眞 朝霧涼 辻岡正人

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ