柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『資本』 〜現代の「ロビンフッド」 (柳下毅一郎)

『資本』
Le Capital (2012) フランス映画
監督:コンスタンタン・コスタ=ガヴラス
脚本:コスタ・ガヴラス、ジャン=クロード・グリュンベルグ、Karim Boukercha
撮影:エリック・ゴーティエ
出演:ガド・エルマレ、ガブリエル・バーン、ナターシャ・レニエ、イッポリット・ジラルド、ベルナール・ル・コック、セリーヌ・サレット

 

 ポリティカル・スリラーの名手、コンスタンタン・コスタ=ガヴラスの新作である。

『Z』や『戒厳令』といった傑作左翼スリラーの数々が思い起こされるコスタ=ガヴラスも、1933年生まれだから79歳。世界的な左翼退潮の波の中、いつしか話題も減ってどうしてるのかなあ……と思っていたのだが、どっこい元気に新作を作っていた。

さすがにポリティカル・スリラーでこそないものの、社会批判の刃もそのままに現代のスーパー資本主義の世界が舞台だ。もう、コスタ=ガヴラス健在というだけで嬉しくなってくるのだが、はたして中身の方は……

 

 主人公はフランス最大の銀行フェニックスの社長秘書マルク(ガド・エルマレ)。自伝のゴーストライターをつとめたことがきっかけで社長に取り入り、個人秘書として辣腕をふるっていた。

ところがある日、社長はゴルフ場で発作を起こし、倒れてしまう。幸い命に別状はなかったものの、執務が続けられる状態ではない。その公認に選ばれたのは、なんとマルクであった。実務家でもなく、社内に派閥も持たないマルクは、当座のお飾りにはちょうどいい、と社長と重役たちの利害が一致したのである。

だが、マルクにはマルクなりの考えがあった。周囲の思惑がどうだろうと、一度トップの座についてしまえば、そう簡単に引きずり下ろすことはできないのだ。大株主との折衝を無事に終えたマルクは、全世界の従業員とのスカイプ対話というパフォーマンスをおこない、一躍改革の旗手との評判を得る。だが、その翌日には社員を片っ端からリストラしはじめるのだ。大規模リストラによって収益は向上、当然株主は大喜びというわけだ。マルクのマキャベリストむきだしの論理は当然反発も呼ぶことになる。

インテリぞろいのマルクの親族は、こぞってマルクのおこないに批判的である。彼はいわば一族のブラック・シープなのだ。

マルクは親戚に論難される。

「おまえのおこないは一人の人間に三重に罰を与えてるんだ。銀行の社員は市民でもあり労働者でもある。レイオフで社員に罰を与え、不況を招くことで市民に罰を与え、仕事を奪うことで労働者に罰を与える」

だが、マルクにとっては蛙の面に小便だ。「ぼくはあんたたち左翼のおっさんが夢見てたグローバリズムを実現したんだよ、間抜け!」

後半、物語はフェニックスの大株主でもあるアメリカのヘッジファンド・オーナー、ディトマー(ガブリエル・バーン)との丁々発止のやりとりと、ディトマーが勧める日本の銀行の買収計画をめぐって展開する。銀行は実は膨大な含み損を抱えているのだが、ディトマーはそのことを隠してマルクに銀行を買わせようとしていたのだ。

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tags: ガド・エルマレ ガブリエル・バーン コンスタンタン・コスタ=ガヴラス ナターシャ・レニエ フランス 洋画

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