柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『ドッジボールの真理』 全編グリーンバックの少女スポ根映画。その映像は想像をも遙かに凌駕する・・・ (柳下毅一郎)

 

ドッジボールの真理 code01 伝説のレッドブルマー

監督・原作・脚本 葉山陽一郎
撮影 横山拓矢
音楽 野島健太郎
出演 福永マリカ、和田絵莉、森岡朋奈、堀田理沙

 

face 解説によれば「全編グリーンバックで撮影された映像とCGアニメーションを融合させ、漫画を読んでいるかのような感覚の作品に仕上げた」ドッジボール映画である。全編グリーンバックって! それ、製作がWETAなら、あるいは傑作が生まれるかもしれない。だけどここは日本で、映画は自主製作だ。そんなの、想像を絶するほどショボい映像しか想像できないだろう。だが実物は、こちらの想像をも遙かに凌駕するショボさだったのだ……

歌舞伎町中学の中学生、真理(福永マリカ)は気弱ないじめられっ子。授業中にトイレにいけずにおもらししてしまったので「おもらし真理」とからかわれている(ここだけでなく、中では洒落にならないレベルの下ネタが飛び交っていたのだが、出演している少女たちはどう思っていたのか)。今日も今日とてドッジボールでいじめっ子たちのおもちゃにされている。わざと顔面にぶつけられ、「顔面セーフ」で延々といたぶられる真理。するとそのとき二宮金次郎の銅像の目がキラリと光り、爆発して中からブルマーの少女があらわれた。たちまちのうちにいじめっ子たちをドッジボールでなぎ倒す赤ブルマー少女。

「あなたは誰?」
「わたしは……電光石火のレイ!」

 いや本当に誰だよ! と思う観客をよそに、レイみたいな強い女の子になりたい……と思った真理は一念発起して空手をはじめる。青葉台高校に進学するとドッジボール部を結成、ついに全国大会の決勝戦まで勝ち進んだのだった。

さてこの映画、予想をはるかに超えてすごいもので、ストーリーは「ベタ」ではなくて「下手」をとおりこして「意味不明」。背景を彩るはずのCGアニメーションというのはほぼ絵。それもアニメの背景じゃなくてフラッシュアニメのレベル。これなら絵で描いたほうがまだしもだったんじゃ? てか学校とか商店街とか、実写で撮ればいいんじゃねえの? と思わされるものばかり。フラッシュアニメの背景の前で突っ立った少女たちが左右に動く(背景を動かすのが面倒だったのか、カメラと人物の距離は変わらないので基本的にミドルショットで棒立ちの人たちが走ったりボール投げたりするのがアクション)というだけでも驚くほどのチンケさなのだが、さらに恐ろしいことにエキストラもおらず、そのかわりにCGで描いた人物がいる。動かすのが面倒だったのか、棒立ちの人が手をぶらぶら揺らしているだけ。しかもキャラ作りも面倒だったと見えて顔は全員同じ! 男女のキャラクターをひとつずつ作っているだけで、モブシーンになると同じ顔の女の子のがずらりと並んで手をぶらぶらしているという悪夢のような光景が現出する。いや、これ本当になんのつもりで作ったのか。ギャグで作ったにしては長いし、まじめに少女スポ根ものにするつもりだったのならあまりにもショボすぎる。製作岡田裕って本当かよ……

背景が遠近法など無視した一枚絵だもんで、真理が気になっている「いきものがかり」の少年がウサギやニワトリを飼っている生き物小屋が巨大木造倉庫みたいだったりする。真理が絵に描いたウサギを抱き上げた(ウサギの絵が貼りつけてある)ときには腹が痛くなった。いやウサギくらい本物使っても罰当たらない……てかお金かからないよ! と思ったのだが、映画のチラシを作るためにクラウドファンディングを募集していた(しかも不成立……)ところを見ると、あるいはそのお金すら……

 

443f2910ab9081e6c5fb7aa8c00ee84d2

(残り 1351文字/全文: 2829文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

tags: スポーツ 和田絵莉 堀田理沙 森岡朋奈 横山拓矢 福永マリカ 葉山陽一郎 野島健太郎

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ