柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『バニラボーイ tomorrow is another day』 すべてが茶番オブ茶番。関係者の慰安旅行と自己満足のための長すぎる118分 (柳下毅一郎)

公式サイトより

 

 

バニラボーイ tomorrow is another day

監督 根本和政
脚本 保木本真也、根本和政
出演 ジェシー、松村北斗、田中樹、竹富聖花、美山加恋、山崎萌香、要潤、ブラザートム、西村和彦、北川弘美、高橋ユウ、船越英一郎

 

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ジャニーズJr.のグループ内ユニットSixTONESのジェシー、松村北斗、田中樹の映画初出演作である。というわけでどうでもいい青春映画と思いきやなんとSF!

海のない栃木県でサーフィン部に入っている、平凡で若干イケてない高校生・太田。しかし、彼が何事もなく普通の毎日を過ごすこと=世界の平和が保たれるという、摩訶不思議な力を持った超重要人物だった。親友のスーパー頭脳と身体能力を持った林、松永をはじめ、彼の通う高校の教師らが日本政府から国家機密として受けていた使命は、秘密裏に彼を守ることだった。そんな太田が、心の均衡が保てない出来事、つまり恋に落ちてしまった!その壮大な力を巡り、NSA(米国家安全保障局)やテロリストまでもが絡む、大事件が繰り広げられていく!

いかにもぬるいセカイ系コメディ。監督はテレビ・ディレクター、舞台は栃木と沖縄! というわけでこれが吉本芸人の出演作なら沖縄映画祭とのタイアップでまたかというとこなんだが、今回はジャニーズJr.ということなんで、誰が誰にご褒美を贈るつもりでこんな企画が生まれたのかよくわからない。まあ業界の相互互助会的なものなのだろう。ぬるいコメディならば誰も真面目にやらなくてもいいわけで、とくに何も考えずにアニメのパロディとかやって「アニパロやってんじゃないよ!」とセルフ突っ込みしてれば沖縄にも行けてリゾート気分で楽しく……どうせ誰も見てないし! 見て怒ってるのはオレだけだし!

 

 

栃木に住む平凡な高校生太田(ジェシー)。彼は凡人だが親友の林(松村北斗)は学校の授業などはるかに越えた超天才、同じく同級生の松永(田中樹)はどんなスポーツもオリンピックレベルでたやすくこなしてしまうスーパーアスリートである。三人は学校ではサーフィン部に所属しているが、なんせ海のない栃木県、活動と言っては地上でパドリングの練習をするだけで、同級生からも呆れられている。

だが、実は太田には秘密があった。彼の身に事件がふりかかると、風が吹くと桶屋が儲かるのごとくに世界に破局が広がるカタストロフ体質の持ち主だったのだ。1999年7月生まれだからノストラダムスさんのおっしゃるところのアレだ。その名を「バカフライ・エフェクト」!(これを思いついた脚本家のドヤ顔が見えるようだ)。ちなみにリーマンショックは彼の分だったケーキを他の子が食べてしまったことが原因で発生した。「バカフライ・エフェクト」の波及を食い止めるべく、政府直属の役人たちは彼の住む街の住人、通う学校の教師たちとなって彼が日々平安な暮らしを送れるように必死の努力を繰り広げているのだ!ってつまり『サトラレ』みたいな話をやりたいんだと思うんだけど、予想されるとおり真面目にその設定を追求するでもなく、校長(船越英一郎)が暗い部屋で眼鏡かけて組んだ手でポーズをとって、白衣の天才科学者立子(北川弘美)に「リツコと呼びたい……」と言ってるとかもうね……もちろんそんな学校だから教師も生徒も完全に太田を管理するためにコントロールされてるのかというと全然そんなことない底抜けぶり。

そもそも太田が「サーフィン部」に所属してるのは栃木なら海がないから実際にサーフィンをしないで済む=事故が起きない、という理由である。じゃあなんで太田はそこにわざわざ入ったのか? 周囲の生徒たちは彼らのことをどう思ってるのか。スーパーアスリートや世界的天才が丘サーフィンして暇つぶしてることを誰も疑問に思わないのか。そういうことはもちろんいっさい考えるだけ無駄無駄無駄。

 

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tags: SF ジェシー ジャニーズJr. ブラザートム 保木本真也 北川弘美 吉本興業 山崎萌香 松村北斗 根本和政 沖縄 沖縄国際映画祭 田中樹 竹富聖花 美山加恋 船越英一郎 西村和彦 要潤 高橋ユウ

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