柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『少女』 たいそう込み入ったストーリーだが、なあに最終的にはみんなつながってしまうのだから、早いか遅いかの差だ (柳下毅一郎)

公式サイトより

少女

監督 三島有紀子
原作 湊かなえ
脚本 松井香奈、三島有紀子
撮影 月永雄太
音楽 平本正宏
出演 本田翼、山本美月、真剣佑、佐藤玲、児嶋一哉、川上麻衣子、銀粉蝶、白川和子、稲垣吾郎、菅原大吉

 

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狭い世界の話である。

少女 (ハヤカワ・ミステリワールド) 湊かなえ作品と言えば、極端にエキセントリックな登場人物が、常識的には考えられないような行動をする、たいそう人工的で不自然なこしらえもの、という印象がある。派手でショッキングな筋立てが映像化に向いていると思われるのかしょっちゅうテレビや映画の素材になるのだが、そこのところをよく考えないと人工的なプロットに好感のもてないキャラクターが動かされるだけの話になってしまう。しかるに本作の監督である三島有紀子の場合、ここぞという場所でスローモーションを使うとか水の中に沈んでいく制服少女のイメージカットを多用するとか、ちょっと詩的な映像で観客を幻惑しようというくらいしか考えていないようで、ストーリーの人工性にはまったく手つかず。結果、映画としては純粋湊かなえ、ストレートノーチェイサーでリアリティのかけらもない話ができあがってしまった!

さてこの話、湊かなえらしくたいそう込み入ったストーリーで、嘘のような偶然で登場人物同士はみなつながっていく。物語の展開そのままに説明していくとただ混乱するばかりかと思われるので、ここでは思いっきり簡略化し、劇中の偶然の一致で発生する驚きのいくたりかを割愛してしまうことをお許しねがいたい。なあに、最終的にはみんなつながってしまうのだから、早いか遅いかの差だ。

 

 

桜川女学院の高校二年生、同級生の由紀(本田翼)と敦子(山本美月)は親友同士である。二人とも、過去の怪我があって体育の授業はサボる仲間だ。由紀は手にひどい怪我を負っているが、それは実は日がな一日縁側に座って物差しで縁側を叩き続けている(ものすごくヤバい)元桜川女学院教師らしい祖母(白川和子)の仕業らしい。由紀は日々祖母を呪い、死んでしまえと憎んでいる。敦子は元剣道少女で日本一になったこともあるのだが、試合中に大怪我を負って、剣の道をあきらめた。ところが剣道の推薦で高校に入った彼女に周囲は冷たい。「あんたが怪我したせいで日本一になれなかった」「推薦のくせに、剣道辞めても高校には残るんだ」と剣道部員や同級生からよってたかってロッカーに生理用品を詰め込まれるなどのイジメを受ける(こういう紋切り型でリアリティに欠ける悪意が典型的湊かなえ)。「死ねばいいのに」と言われまくった敦子は不安発作で過呼吸を起こすようになってしまう。というわけで剣道日本一から足を引きずって歩くいじめられっ子へと華麗な転身を遂げた敦子である。

由紀はそんな敦子のために、授業中内職して『ヨルの綱渡り』という純文学小説をせっせと書いている。「さあ、ヨルの綱渡りのはじまりだ」とかいう文章があって一方的に絶望していたのだが、まあ純文学らしいですよ。授業もサボって書いた小説がやっと完成。ところが運動会の日、女子高生がせっせとメイポールを踊っているときに、なぜか学校に持ってきていた原稿が何者かに盗まれてしまう(これ、なぜか原稿用紙にせっせと書いているという設定で、どういうアナクロニズムなのか)。誰だ! と必死で探す由紀だが犯人はほどなく判明。元純文学作家志望だった現国の教師小倉(児嶋一哉)が盗んだ小説を某雑誌新人賞に応募し、見事受賞してしまったのである。憤懣やるかたない由紀、職員室に忍びこむと小倉のパソコンを盗み出し、なんなくパスワードを解除して内申書をネット流出させ、学校をクビにさせる(それにしても、なぜ援交動画を流出させなかったのか。そっちのほうがよほどだと思うんだが)。

 

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tags: 三島有紀子 佐藤玲 児嶋一哉 山本美月 川上麻衣子 平本正宏 月永雄太 本田翼 松井香奈 湊かなえ 白川和子 真剣佑 稲垣吾郎 菅原大吉 銀粉蝶

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