柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡』 高校生と貧乏鉄道の電車の駅伝対決という設定の勝利。千葉県銚子市発、究極のテツ映画が登場 (柳下毅一郎)

公式サイトより

 

 

トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡

監督 杉山泰一
原作 吉野翠
脚本 佐野誠、吉野翠
撮影 沖村志宏
音楽 前山宏彰
出演 松風理咲、前野朋哉、植田真梨恵、市川理矩、堀田真由、升毅、菅原大吉、井上順、有野晋哉、富田靖子

 

 

face銚子電鉄 は全長わずか6.4km、全11駅の貧乏ローカル線として知る人ぞ知る存在である。何度か経営危機を迎えているが、そのたびにぬれ煎餅の売上で危機を脱しているらしい。ぬれ煎餅が本業の売り上げを上回るとか、それにしたって貧乏すぎるだろ! そんな貧乏鉄道を盛り上げるため、地元の高校生たちがイベントを考えた。なんと駅伝対決である。駅間をひとつの区間と見立て、九区間を九人の高校生ランナーが走り、電車と速さを競うというのである。いやちょっと待て。いくら貧乏ローカル線だって、人間と競争して勝負になるのか? と思ったので計算してみた。ええと、銚子電鉄は銚子ー外川間を20分で走るので、平均時速19.2kmということになる。1500メートルの高校記録が3分40秒ほどなので、高校のトップランナーを集めれば余裕で勝てそうだ。まあ映画の中でもものすごい勢いで抜かれていたくらいだから、かなりリアルな設定だと言えよう。映画の設定としては満点をさしあげられる。この映画、低予算の割にはたいへん頑張っており、銚子電鉄を愛する人にとってはいろいろたまらんのではないか。そういうわけで千葉県銚子市発、究極のテツ映画の登場である!

 

 

さて、本作の主人公は椎名杏子(松風理咲)、銚子南商業の高校生である。銚子電鉄を愛してやまない杏子は駅伝企画を立ち上げたはいいものの、参加者が集まらないので結局文化系である自分たちで走ることになってしまった。しかも駅伝三日前だというのにいまだメンバーが足りてない! なんでかというと対決の日程を陸上部の県大会当日である日曜日に設定してしまったため、陸上部からメンバーが借りられなくなってしまったのだ。陸上部からは杏子の幼馴染である航平(市川理矩)ただ一人。杏子の意中の相手は陸上部のイケメンエースなのだが、それは絶対ダメと言い渡されている。てか、これモデルは銚子商業らしいんだが、陸上部がダメならかの有名な野球部に頭下げて何人か借りてくればいいんじゃないの? あまりにも無理矢理な障害だなあ。ただ、そんなわけでメンバーが特に足が早いわけでもないので、いい勝負になってるというのが結果オーライなポイントか。

戦う相手となる銚子電鉄側、脱サラして運転士になったテツ運転手磯崎(有野晋哉)は2002系の整備に余念がない。社長から「絶対勝て! 負けたらおまえの責任だからな!」と無駄に発破を掛けられて困惑気味だ。実は磯崎は杏子の母小百合(富田靖子)とは幼馴染で、釣果を届けてたり何くれなく世話をやいている。だが、お年頃で反抗期の娘にとっては未亡人の母と親しいおっさんの存在は何かと不愉快なのだった。毎朝のように駅に出勤してくるボケ老人の「駅長」(井上順)の世話をしながら、対決の準備を進める磯崎だが、そこへまさかの障害。コンプレッサー接続機が故障してしまったのだ。天下の貧乏鉄道銚子電鉄で使っている古い車両はとっくの昔に保全用部品もなくなっている。同じく古い車両を使っている電車会社に片っ端から電話して探す磯崎。だが、見つからなければ対決は中止しなければならない……いや、それ普通に営業用車両使ってやればいいんじゃないかと思うんだけど、それだと何か問題あるんだろうか? 実際のところ、単線の銚子鉄道では営業運転しながら対決電車を走らせるなんて余裕はないはずなのだけど。ちなみに撮影においては、実際に有野晋哉が運転するわけにはいかないので、最後部の運転席に座って、後退しながら運転するさまを撮影し、それを逆回転してあたかも運転しているように見せたのだという。この話にはちょっと感心した。

 

 

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