柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『TOKYOデシベル』 ものすごい剛速球をスタジアム外に投げ捨てるかのような辻仁成監督の大暴投でしたが、安達祐実はエロかった。それだけは言える (柳下毅一郎)

 

TOKYOデシベル

原作・監督・脚本・編集 辻仁成
エグゼクティブプロデューサー 太田光代
撮影 船本賢悟
音楽 SUGIZO
出演 松岡充、安倍なつみ、長井秀和、鈴木優希、SUGIZO、山中秀樹、坂上忍、安達祐実

辻仁成監督第九作にして最高傑作! フェミナ賞作家辻仁成が三島賞候補ともなった自作を映画化した新作の登場である。「EOS 5Dで映画ごっこ」とさんざん悪口を言ってきたわけですが、本作ではついに辻仁成は微速度撮影のわざを覚えた! 微速度撮影を使いまくり、スカイツリーの上を流れてゆく雲とかくるくると色が変わっていく隅田川の夕景とかがばんばん出てくる。もちろん風景はきれいだけど、きれいな風景撮るだけなら誰でもできるんだからね! 製作はなんと太田プロの太田光代、安倍なつみと安達祐実という強力なダブルヒロインを迎えた本作、はたして中身はというと!

 

 

リサ(鈴木優希)がピアノを弾いていると、「ちょっと待って、やっぱりここが違ってるわ」といきなりハンマーを出して調律をはじめるフミ(安達祐実)。「どうしても調律できないピアノ」はフミとリサの父宙也(松岡充)とのしっくりいかない関係の象徴なわけですね。そういうわけで、同棲中だったフミは

「あたし出てくから」

 といきなり家を出ていってしまう。理由を聞いても

「音が合わないの……あなたの横だと熟睡できない……」

 と曖昧なことを言ってるばかり。ここらへんがいかにも辻仁成映画っぽい。

ところで私生活では振られてしまった宙也、普段はマイクとテレコをかついで東京じゅうをほっつき歩いている。大学で「東京の音の地図」を作るというプロジェクトをたちあげ、もう四年もやっているのである。

「蝉の声も高速道路の騒音も同じ100デシベル。しかし一方は騒音とされ、一方は喜ばれるのはなぜだろう?」

 などと、たまたま音響採集中に出会った左手に長手袋をしている女に偉そうに講釈している宙也である。だが家に帰ってみるとフミが出ていったあと家事をまったくしないリサのせいで家はたちまちゴミ屋敷に。ゴミぐらい捨てろ! と怒る宙也。翌日、家を出ようとすると玄関に「家政婦 承ります」のチラシがはさまっている。ふうん……と思って連絡してみるとそれは昨日会った長手袋の女マリコ(安倍なつみ)であった。通いの家政婦として働くことになったマリコに、リサは「ママって呼んでいい?」といきなり甘える。どうもフミにもママになって!とせまっていたらしく、どうも全肯定か全否定かの不健全な関係しか結べない子であるらしい。ていうかフミに「ママ、ごはん作って!」とか言ってる時点で宙也がなんとかしろって話だよな。料理と掃除でたちまち宙也とリサの心をつかんでしまったマリコである。

「きみはなんでわざわざ来てくれたんだ?」
「あなたのファンだから……いや、正確にはあなたの口笛のファンかな」

 自分が一人のときに吹いている口笛のことをなんで知っているのか? 頭が?でいっぱいになった宙也をマリコはマンションの地下に案内する。なんと同じマンション(の地下室)に住んでいたのか! と驚く間もなく見せられたのは広帯域受信機。

「この時間はあなたの隣の部屋から男女の声が聞こえる……」

 盗聴か!

「わたしがしかけたんじゃないわよ。あなたがあの家に入る前からあったものかもしれない」

 なんと盗聴マニアだった安倍なつみは宙也の家の事情もすべて把握済だったのだった! この女、「ここは盗聴波がよく入る場所なの」的なことを言ってるんだが、絶対家政婦として入り込んだ家に盗聴器しかけまくってるだろ!

 

 

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tags: SUGIZO 坂上忍 太田光代 安倍なつみ 安達祐実 山中秀樹 松岡充 船本賢悟 辻仁成 鈴木優希 長井秀和

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