柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『映画 吉田類の「今宵、ほろ酔い酒場で」』 酒場の人情話ほど陳腐なものはない。吉田類も『深夜食堂』くらいにとどめとけばみんな幸せだったのに……

公式サイトより

 

 

映画 吉田類の「今宵、ほろ酔い酒場で」

 

監督 長尾直樹
脚本 阿部理沙、長尾直樹
音楽プロデューサー武田秀二
撮影 松島孝助
主題歌 吉田類
出演 吉田類、伊藤淳史、松本妃代、菅原大吉、戸田昌宏、津田寛治

 

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酒場詩人こと吉田類映画初出演作である。BSで放映中の番組『酒場放浪記』で人気になったハンチング姿の酔っ払いのおっさん歌手、人気をかってついに映画進出となった。なんで映画に! と言いたいところだがまあエクスプロイテーションというのはそういうものだ。そしてなんでこんな映画に! となってしまうのもまあいかにもありがちな話である。吉田類コンテンツを映画化するにあたって、いちばんやってはいけない安易きわまりない方法で映画を作ってしまうのがエクスプロイテーションの恐ろしさ。つまり、「酒場を舞台にした人情話」の短編オムニバス。今宵もほろ酔い加減の酒場で起こる大小さまざまな騒動をオムニバス形式で語るという……いやあここまで安易な映画もないよ! 吉田類は語り手として枠物語的に登場するほか、第三話の主役をつとめてクサい芝居を披露する。およそ酒場での人情話ほど陳腐なものはないわけで、いまさら吉田類が出てきたくらいで陳腐さが薄れるわけではない。芸達者なわけでもない役者が、とりたてて新しいわけでもない話をだらだらと演じてみせたとして、何か新しいことがあると本気で思っているのだろうか? 吉田類の吉田類性を活かすなら、やはりドキュメンタリー的に撮影の最中どんどん本物の酒を飲ませ、共演者から勧められる酒もどんどん飲ませて、映画の終わりごろには完全に呂律がまわらない泥酔状態になっていてこそではないだろうか!

 

 

そんなわけで三話で三つの酒場が登場する。第一話は「居酒屋チャンス」「人生のチャンスを逃しつづけた人が集まる」ダメ人間酒場なのだが、なぜかホッピー推しで全員ホッピーを飲み、「ホッピー、ハッピー!」しか言わない。これがなぜか氷なしでグラスに入れた焼酎にホッピーを注ぐ飲み方。実はこれ、ホッピー・ビバレッジが推奨している「三冷(グラス、焼酎、ホッピーを冷やして、氷を入れずに飲む)」という由緒正しい飲み方ではあるのだが、こんな場末の酒場がそんな洒落たことやってるわけがねーだろ! どう見たって焼酎をやかんでどばどば入れるような酒場だぞ! 「ホッピー仙人」じゃあるまいし! と思ったら本当に「ホッピー仙人」が協力してたんでうーむ……と思ってしまった。まあそんな意識高い飲み屋に集まってるのはオーディションに落ち続けてる女優やスクープに見放された週刊誌記者らダメ人間ばかり。

 

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tags: 伊藤淳史 吉田類 戸田昌宏 松島孝助 松本妃代 武田秀二 津田寛治 菅原大吉 長尾直樹 阿部理沙

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