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柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』 男に都合いいだけのファンタジー。ミソジニーのきわみ。この映画の最大の被害者は、こんな役をやらされている水原希子 (柳下毅一郎)

公式サイトより

 

 

奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール

監督・脚本 大根仁
原作 渋谷直角
撮影 宮本亘
音楽 岩崎太整
出演 妻夫木聡、水原希子、新井浩文、松尾スズキ、リリー・フランキー、安藤サクラ、天海祐希

 

face大根仁監督作品については過去あまり語ることがなかった。ざっくりと感想を言うと『モテキ』は悪くない。『恋の渦』は可もなく不可もなし。『バクマン。』は全然ダメ。ただし語るのはすごく面倒くさく、というのもほとんどの場合、彼の映画の欠点は「わかってやってる」ことばかりなのだ。『バクマン。』のアナクロニズムも、ミソジニーも、すべて意図的な演出である。だから、それを指摘したところでしょうがないのである。「原作がそうなっているんだし、それをもっともわかりやすく観客に提示するために、意図してアナクロニズムを使っているのだ」と言われるだけである。そして、それを喜んでいる観客がいるのであれば、別にぼくがどうこう言うことでもないし……と思って文句を言うでもない状態が続いていたんだが、この新作に至ってちょっと……これはいくらなんでもひどいのではないか? これはさすがに知的退廃というべきではなかろうか? だって、ねえ……

 

 

主人公、コーロキ(妻夫木聡)はライフスタイル雑誌〈Malet〉の編集部に配属されるが、オシャレ上級者ばかりがそろう編集部で早くもビビり気味。そもそもコーロキがなぜ「奥田民生になりたいボーイ」かというと、それはかつて「ミュージック・ステーション」に出演した奥田民生を見たときにさかのぼる。しみつきのジーンズをはいてテレビに登場した奥田民生は、タモリからそこをつっこまれると、「さっきラーメン食べたときに染みが飛んだんですよ」と淡々と答えていた。それを見ていたコーロキ少年はいたく感動、自分もあんな風にいつでも自然体をつらぬける大人になりたい……と思ったのだった。そんな「奥田民生になりたいボーイ」、入ってさっそくの仕事はファッションブランドG&Kのタイアップ広告製作。もともとは先輩の吉住(新井浩文)が担当していたのだが、ロンドン出張に行くことになって引き継いだのだ。そこで出会ったのが広報の天海あかり(水原希子)。モデルそこのけの可愛さにたちまち夢中になるコーロキ。ちなみに本作はコーロキの脳内の思考がすべて発声される伝統的副音声映画なのでそれはもううるさいほどに「あかり可愛い~」がリピートされて嫌でもあかりの可愛さは脳に焼き込まれる仕様である。ともかく彼女可愛さのあまり、タイアップページの最後に「なんか作家のエッセイが欲しいんです~又吉とか村上春樹とか~」とあからさまな無茶ぶりをされても「大丈夫ですよ~春樹はともかく、又吉ならなんとかなるんじゃないかな~芸人だし!」と何も考えていない安請け合いをしてしまうコーロキである。「すっごい! コーロキさん、頼りになりますね!」

タイアップ記事のライターはG&K社長江藤との関係で倖田シュウ(リリー・フランキー)と指定されている。さっそく会いに行くとそこにいるのは調子の良さだけで仕事をしている前世紀の生き残りのようなフリーライターなのだった。「だいじょうぶだあ! いやオレ最近志村けん再評価してるんだよ」こ・ん・な・や・つ・い・る・か! もちろんこれは戯画化された「業界ゴロ」なわけで、こんな奴がいるわけがないということは渋谷直角も大根仁もわかっている。ただ、これがたちが悪いのはこの役をリリー・フランキーにふっていることで、役の説得力をもっぱらリリー・フランキーに頼っているのだ。実は水原希子をはじめとする主要キャストはみな徹底して馬鹿馬鹿しいほど戯画化されたオーバーアクトするのだが、その役の説得力は個人の属性によっているのである。どんなに馬鹿馬鹿しくてもリリーが/安藤サクラが演じているんだからしょうがない、というわけ。これを退廃と言わずしてなんと言おう。

 

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tags: コミック原作 リリー・フランキー 副音声映画 大根仁 天海祐希 妻夫木聡 安藤サクラ 宮本亘 岩崎太整 新井浩文 松尾スズキ 水原希子 渋谷直角

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