柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『巫女っちゃけん』プロデューサーと名の付く人が全部合わせて18人! 船頭多くして山に登ってしまった映画の典型 (柳下毅一郎) <無料>

公式サイトより

 

巫女っちゃけん

監督 グ・スーヨン
脚本 具光然
撮影 小倉和彦
音楽 Lowland Jazz
出演 広瀬アリス、MEGUMI、リリー・フランキー、飯島直子、山口太幹、仁村紗和、川津明日香、矢吹春奈

 

最近映画を観るたびに「なぜ、作った」とフランケンシュタインの怪物のコピーみたいなことを言ってるんだが、この映画は本当にわからない。なんでこんなものに製作としてRKB毎日放送、イオン・エンターテイメントを筆頭に12社、プロデューサーと名の付く人がエクゼクティブプロデューサー10人を筆頭に、アシスタントとかコとか全部合わせて18人もかかわっているのか。ギャグかと思うくらい、船頭多くして山に登ってしまった映画の典型である。これだけの人が頭を寄せあって作ったのが広瀬アリスが巫女コスプレでふくれっ面をするのが最大の見せ場という映画なんだから、かかわった人全員の頭を開いて中を見たくなったとしても無理はないと言えよう。ただ、この映画の場合、主犯が『偶然にも最悪の少年』以来愚の大きさには定評のあるグ・スーヨン監督なので、この「プロデューサー」連中全員コネをつけられて引きずり込まれてしまった哀れな犠牲者だという可能性もあるのだが、しかしこんなところに名前を連ねている時点で……

、。

 

舞台は福岡県福津市に立つ宮地嶽神社。しわす(広瀬アリス)は宮司(リリー・フランキー)の娘。よく言えば鷹揚な、悪く言えば昼行灯な父親のもと、やる気もないまま巫女として働いているデモシカ巫女である。商売繁盛の神様なのにお守りが効かず大損した。金返せ!などと詰め寄るモンスター参拝客ばかりを相手にしてすっかり呆れ気味。同僚のヤリマン巫女からは「おっぱいもないくせに」と馬鹿にされる日々である。ある日、神社のゴミ箱から火があがる。不審火の犯人を探すうちにつかまえたのが賽銭泥棒の口をきかない少年ケン太である。なんせ口をきかないので正体がわからず、しょうがないので何事にも「神様がいますから」と泰然とかまえるリリーの神社で世話をすることになる。それを警察も認めてしまうんだが、これいろいろおかしくないですか? なんで一介の寺院がそんな立場なんだよ! もういろいろグダグダ過ぎて突っ込む気にもならないのだが、そういうわけでふてくされた広瀬アリスがぶつくさ文句を言いながら無愛想なガキの面倒を見るという設定ができあがったわけである。実を言うとこの映画、ほぼ話はこれだけなのである。本当にこれ以上のことは何も起こらない。ここまで薄っぺらな映画もなかなかないのではなかろうか。あ、ついでながらひさびさに見たグ・スーヨン作品、ガチャガチャ編集をはじめとする細かく無意味な映像ギミックがなくなって、よくも悪くも普通の映画になっていた。別に面白くなったわけではないのはもちろんのこと。

さて、そうこうするうちに神社に若い娘がやってくる。ケン太の母親美和(MEGUMI)が迎えに来たのだ。

「どーせ新しい男ができて、子供が邪魔になったんじゃないの?」

 などと毒づくしわすだが、子供は渡さざるを得ない。だがこの母親、しわすの推測通りのDV母。何かというと癇癪をおこして息子をひっぱたく。またぞろ家出して神社に逃げてきた少年。

「誰に叩かれてそんな痣ができたの?」

 と訊ねられると無言でしわすを指差す。当然逆上するしわす。「これ問題になりますから! 神社庁に報告します!」と勝ち誇るお目付け役。てか神社本庁ってどういうところだと思ってるのかね。そんなわけでしわすは謹慎処分。ケン太は再度DV母に引き取られる。こっそり様子を見にいくと、例によってこづきまわされているケン太。ついに我慢できなくなったしわす(見てるこっちもたいがい嫌な気持ちになってるわけですが)、衝動的にケン太をひっさらって逃げだす。しわすの監督下で賽銭泥棒して、あてどない逃避行に出かける二人である。バスにのって行った先は……リリーの離婚した妻、つまりしわすを捨てた母真紀(飯島直子)である! 飯島直子、海辺におしゃれなレストランなどかまえている。

「わたしはたしかにあんたを捨てたわよ。でも謝らないわよ。わたしは自分の人生をとりもどすためにあの神社を出たの。一生神社で巫女なんかやってるなんてまっぴらだから」

 しわすがいつもふくれっ面してるのもこの母親への恨みのせいだった。だけど開き直られてしまうとそれ以上言うこともなく、うじうじしているとそこでケン太が放火魔の本領発揮、おしゃれレストランに火を放って飯島直子大パニック! ってこいつひたすら犯罪しかしてないんですけど、それが痛快な仕返しということになって、しわすとケン太は逃げだして神社に帰る。神社ではリリー父さんと美和が待っており、いきりたつ美和に向かってリリーが

「いいですか、あなたは必ずしも望んで母親になったのではないかもしれません。ですが神様からケン太くんをさずかりました」

 みたいなゆるーい説教をして、しわすが再度巫女装束で神楽を踊っておしまい。結局広瀬アリスの巫女コスプレを見せる以外になんの目的があったのかさっぱりわからず、途中結婚式で巫女の衣装を着たいというカップルに向かって

「コスプレやないっやけん」

 としわすがいきりたつ場面があったりするのだが、おまえがいちばんコスプレだろ、としか……

 

 

 

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