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柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『渾身 KON-SHIN』 -いったいいつから「地方発映画」なんかが流行することになったのだろうか (柳下毅一郎)

『渾身 KON-SHIN』

監督/脚本 錦織良成
撮影 松島孝助
音楽 長岡成貢
出演 伊藤歩、青柳翔(劇団exile)、財前直見、中村麻美、甲本雅博、笹野高史、中村嘉葎雄

 いにしえから伝わる「隠岐古典相撲」“絆”や“思いやり”という言葉だけでは言い表せない日本の心が、そこにある-制作:出雲ピクチャーズ - ってなんだ?ってお思いでしょうが、つまりそういうことです。

島根県の島根県による島根県のための映画。最近流行りの地方発映画、ついに映画会社まで作ってしまった。これ、たいへん流行ってはいるんですが、ヒットしたという話を聞いたためしがない。いったいいつからこんなものが流行することになったのか、本当に知りたいのだが。

さて、本作は隠岐之島に長年伝わる二十年に一度の遷宮相撲がテーマ。なんせ二十年に一度の奉納相撲なので、その代表となれるのは一生に一度、島民の男すべてが憧れる一大事なのである。

この相撲に目をつけたのが島根県出身の映画監督錦織良成。錦織は『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』をはじめ故郷島根を舞台にした映画〈島根シリーズ〉を三本も撮っており……ってこいつが元凶なんじゃないか! 前作『わさお』でもすばらしい演出を見せつけた錦織が、劇団exileから主演男優を迎えて「“絆”や“思いやり”という言葉だけでは言い表せない日本の心」を見せつける!

物語の主人公は青柳翔(劇団exile)演じる英明。結婚式を直前でドタキャンして麻里(中村麻美)と駆け落ちしたのだが、隠岐の呼び声たちがたく数年ぶりに帰ってきた。ちなみに婚約者は精神を病んで入院してしまったとの噂。親から勘当され、狭いムラ社会だけに就職もできず、素潜りの漁師になる英明。苦しい生活の救いは一粒種、琴世の誕生であった。だが好事魔多し、麻里は癌にかかってしまったのだった。「本土の病院で検査してください」と医者に言われるが、「退院させて。家に帰りたい」という麻里。おいもうホスピスなのかよ!諦めが早すぎるよ! で、家に帰って二人で夕陽を見ていると、次のカットで麻里はもう墓におさまっていた。

男やもめで幼児を育てる英明に救いの手を差し伸べたのは麻里の親友多美子(伊藤歩)である。琴世の世話をし、炊事洗濯をして何くれとなく世話をやく。あ、言ってませんでしたがこの映画のヒロインは実は彼女なんです。そのうちにすっかり琴世も多美子になつき、多美子が帰ろうとすると「帰らないで~」と泣く始末。多美子も寡黙で男らしい英明(決して演技ができないからセリフが少ないわけではない!)にひそかに惚れていた。そして海を見下ろす丘の上で、意を決して問いかける多美子

「やっぱり琴世ちゃんにはおかあさんが必要だと思うの。いい人がいれば、幸せになってもいいって麻里も思ってると思う……」

 親友を引き合いに出すなよ!実に黒い発言なのだが、英明も鈍いのかボケをかましてるのか

「いい人……いるよ。いや別に付き合ってるとかそういうんじゃないんだけど、いい人だな、と思ってる人が……」
「そうか……いるんだ……」

 ばったりと英明の家に来なくなってしまう多美子。ウジウジしていた英明も意を決し、相撲の稽古の最中に多美子に突進、家に引きこんで告白する。かくして再婚が決まった二人だが、英明はと言えば奉納相撲の最高位、正三位大関に選ばれ、奉納相撲で隠岐最強を謳われる力士と対決することになった。心技体そろった最高の力士でなければ相撲をとってはならぬ神事である。婚約ドタキャン問題を抱えた英明にはいまだ反対も多い。ひとり森の中で木を相手に鉄砲をつく英明はそんな雑音を乗り越え、最強の大関に勝つことができるのだろうか? 渾身の勝負が、今、はじまるーー!

実を言うと映画の最初で説明されるのだが、奉納相撲では同じ相手が二番取り、二番目では最初に勝った方が勝ちを譲って一勝一敗にする決まりなのである。だから実は勝とうが負けようがかまわない。なので英明が「勝てるか」と不安になるとか、琴世が「おまえのとーちゃん、どうせ負けるだろ」って虐められるとかいう展開が違和感があってしょうがない。まあ、ちゃんと相撲になるかどうかが問われてるってことなんだろうが、それならそう言えばいいではないか。

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tags: ご当地映画 中村嘉葎雄 中村麻美 伊藤歩 劇団EXILE 地方発映画 島根県 甲本雅裕 笹野高史 財前直見 錦織良成 隠岐市 青柳翔

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