柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『藁の盾』  中途半端にお金を使ってしまったせいで・・・(柳下毅一郎)

 

『藁の楯』

監督 三池崇史
脚本 林民夫
撮影 北信康
音楽 遠藤浩二
出演 大沢たかお、松嶋菜々子、藤原竜也、岸谷五朗、伊武雅刀、永山絢斗、余貴美子、山崎努

 

カンヌ映画祭正式出品作品である。三池崇史監督作品。期待の一本なのだが……

連続少女誘拐強姦殺人魔・清丸国秀(藤原竜也)が逮捕された。その犠牲者は国内でも有数の大富豪、蜷川隆興(山崎努)の孫娘であった。たったひとつの生きる糧だった孫を惨殺された蜷川は、復讐のために清丸に懸賞金をかける。賞金は十億円。鐘に目の眩んだ男たちが一斉に清丸を襲う! 要人警護のプロであるSP銘苅一基(大沢たかお)ははたして清丸を守れるのか……!

というわけで金に目のくらんだ男たちが日本中から襲ってくる! 身内ですら信用できない! 裏切り者は誰だ! というサスペンス。原作は『BE-BOP HIGHSCHOOL』でおなじみ木内一裕(きうちかずひろ)、自分で監督するために書いた小説が、流れ流れてカンヌ出品作品になってしまったのだという。話の狙いはよくわかる。つまり西部劇的なサスペンスーー賞金稼ぎが悪党をつかまえて、どこから襲われるかわからない緊張感の中で悪人を護送する。仲間の中にも裏切り者がいるかもしれないーーという『3時10分、決断のとき』『16ブロック』のようなプロットを日本で実現できないか、という発想なのだろう。そこで大富豪が殺人鬼に懸賞金をかけたら……というアイデアが生まれたのだ。

ちなみに十億もらえるのは「裁判で有罪となった者」つまり殺したからといって即十億円もらえるわけではない。完全犯罪ではダメで、犯人として名乗り出て、公的に認定されなければならない。これはなかなか高いハードルである。金目当ての謀殺だから、初犯だったとしても十年くらいは普通にくらうだろう(相手が極悪人だから罰は軽い? いや、出所したら十億もらえるとわかっている相手に厳罰を与えない裁判官も陪審員もいないよ)。十年の刑務所暮らしに十億が見合うかというと、これはなかなか微妙な問題である。少なくともぼくはこんなものに乗ろうとは思わない。その意味では基本的に無理のある設定なのだが、別にそれ自体は悪いことじゃない。言い換えれば、こういう無理のあるストーリーを無理矢理力業で見せきってしまうのが三池崇史の得意技だったりする。それを思い合わせると、この映画の最大の欠陥はスターを集めた大作感と二時間越えというスピード感の欠如である。もともとスピーディなBフィルムになるはずだったものに中途半端にお金を使ってしまったせいで、突っ込みを入れる余裕が生まれてしまったのだ。

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tags: カンヌ映画祭 三池崇史 伊武雅刀 余貴美子 大沢たかお 山崎努 岸谷五朗 木内一裕 松嶋菜々子 永山絢斗 藤原竜也

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