柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『謝罪の王様』 あまちゃん賛美の大合唱に心のどす黒い澱・・・そこに映画公開、さすがクドカン!(柳下毅一郎) -3,478文字-

FireShot Screen Capture #146 - '映画『謝罪の王様』公式サイト' - www_king-of-gomennasai_com

 

謝罪の王様

監督 水田伸生
脚本 宮藤官九郎
撮影 中山光一
音楽 三宅一徳
出演 阿部サダヲ、井上真央、岡田将生、尾野真千子、竹野内豊、津嘉山正種、嶋田久作

ico_yan FireShot Screen Capture #144 - 'NHK連続テレビ小説「あまちゃん」' - www1_nhk_or_jp_amachan日本中を感動の渦に巻きこんだ朝の連続テレビドラマ「あまちゃん」、その最終回が放映された9/28(土)はあまちゃんファンの中高年が「終わらないで!」の大合唱。昼から飲み屋に集まって「あまちゃん」最終回を見る会をもよおす輩まで出てくる始末だ。twitterのタイムラインにも「あまちゃんありがとう!」の大合唱が並ぶ。まったく見ていないので何も語る資格のない「あまちゃん」なのだが、自分が理解できないからといって、他人の喜びに水をさすのは無粋なこと。文句をいうくらいなら黙っていよう……と普段から心がけてはいるのだが、朝から晩まで「あまちゃん」賛美のtweetを読まされるともうさすがにうんざりだ……とtweetしかけては消すのをくりかえすこと数回。さすがにどす黒い澱が心の底にたまってきて、これをどうしたらいいものか……と思ったところでそうか!今日から『謝罪の王様』公開だ! さすがはクドカンだぜ。このうんざりした気持ちをぶつけるのにぴったりの作品を用意してくれるなんて!「あまロス」とかふざけたこと言ってる人たちも是非見に行くとよい! みんな大好きクドカン様の新作なんだから。能年ちゃんは出てないけどね!

さて、東京謝罪センター所長こと黒島(阿部サダヲ)は謝りまくって事件を解決する「謝罪師」。今日も今日とてヤクザと揉め事を起こして絶体絶命の窮地に追い込まれた典子(井上真央)から事情を聞いている。信号でバックしようとしてヤクザの車にぶつけてしまったというのだが、帰国子女の典子は「海外では軽々しく謝っちゃいけないっていうし~」とまともに謝罪しなかったためにヤクザの怒りをかい、誓約書にめくら判を押したせいで400万円の賠償金に同意し、大阪のヘルスに叩き売られそうになってしまう。彼女を助けるにはーー土下座しかない! というわけで黒島はヤクザに土下座しまくり媚びを売りまくり、事務所の掃除から組長のカラオケの相手までつとめて賠償金の減額を勝ち取ったのだった。彼に心酔した典子は「おもしろいかも~」と謝罪センター秘書として働くことになるのだった。かくして第二話では……

いや、ちょっと待ってほしい。ていうかすでにこの話おかしいよね? 典子が窮地に追い込まれたのは謝罪がいい加減だったからじゃなくて「よくわかんないし~」とギャルっぽく誓約書にめくら判を押してしまったからなのだし、ヤクザが許してくれるのは黒島が媚びまくったからで、土下座が効いたわけではない。謝罪全然関係ないんだよ! 阿部サダヲの太鼓持ち程度でいい気分になってくれる気のいいヤクザだからこんな話が成り立ってるわけで、普通なら阿部サダヲはマグロ漁船、井上真央は飛田新地だよ! まあそういうメルヘンなんで、残念ながら土下座のノウハウとか謝罪のテクニックとかを教えてくれるわけではない。「謝罪会見では腰の角度100度で20秒間のお辞儀がいちばん効果的」なんて本当か嘘かよくわからない蘊蓄が出てくるところはいいんだが、その先までは追究してくれない。そこらへんがクドカンがチャーリー・カウフマンになれないゆえんである。結局「土下座」という思いつきを真剣に追究するわけでなく、小手先の技で表面をとりつくろってしまうのだ。

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tags: あまちゃん 井上真央 宮藤官九郎 尾野真千子 岡田将生 嶋田久作 水田伸生 竹野内豊 阿部サダヲ

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