『黒い殺意(人間蒸發)』 -日本名物をすべて盛りこんだ偽園子温映画。いつのまにパチられるほどのブランドになっていたのか (柳下毅一郎) -2,487文字-
『黒い殺意(人間蒸發)』
監督・脚本 サム・レオン
出演 クリスティ・チョン、リウ・イェン、でんでん、神楽坂恵、國村隼
ぼくは自他共に認める(監督本人公認の)アンチ園子温派筆頭なのだが、そういう人間は昨今では少ないらしく、とりわけ海外での園子温人気は圧倒的である。まあぼくが園映画について嫌っているところの作為性だったり、これみよがしの描写だったりといったものが、求めている日本映画そのものだったりするタイプの観客がいるのだろう。ともかく、そんなわけで海外で人気となると当然影響を与えたりインスパイアしたりされたりもするわけで、いつのまにか作られて日本にやってきたのがこの映画。出演に國村隼、でんでん、神楽坂恵って……それで日本の温泉宿を舞台にした殺人スリラー……『冷たい熱帯魚』インスパイアを通り越してこれはもう偽園子温映画といっても過言ではない。さすがパチモンの本場香港だけあるが、園子温いつのまにパチられるほどのブランドになっていたのか。香港製偽園子温映画の出来やいかに?
スタイリストのウェイ・リン(クリスティ・チョン)は、親友ガガ(リウ・イエン)のあとを追って日本にやってきた。ガガは旅館経営をしている宏太と結婚すると言って日本に発ったが、その後音信不通になったのである。一緒に行こうと誘われていたウェイ・リンだったが、日本には嫌な思い出があるので来たくなかった。だが、いざ温泉に来てみると、女将からはガガなど来ていないと言われる。いつから連絡取れてないのか? 昨日から……って早いよ!
リンの顔を見た宏太は「すいませんすいません」と逃げてゆく。「とっとと国に帰りな」と言い放つ宏太の姉美智子(神楽坂恵)。この宿にはいったい何が隠されているのか? 夜になると、リンの前に縛られて拘束されたガガの幻影があらわれる。さらには林の中で首を吊る女性のまぼろし。なぜ?
そこへリンを訪ねてドンがやってくる。ドンこそ、リンが日本に来なかった原因なのだった。ドンはかつて日本人女性蛍とつきあっていた。だがその裏でこっそり友人だったリンと出来ていたのだ。三人で富士山を見に行き、蛍と肩を組みながら反対側の手でリンと手を握りあう。そのことを知った蛍、なぜかプールの更衣室でビキニにアイスピック姿でリンに襲いかかる! だがドンはリンを愛していた……ふられた蛍は山に入って首を……ってドン、全部おまえのせいじゃ!
森の中を歩いていたリンはガガの幻を見る。と河原で女将が髪の長い女に襲われているではないか!(この世界の地理はどうなっておるのか)あわてて駆けつけると女は消え、女将は人事不省で横たわっていた。
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