『裸のいとこ』 -全編南相馬現地ロケの「SF」? なんなんだこの映画は!この主人公は!(柳下毅一郎) -3,313文字-
監督・脚本・原案 大鶴義丹
撮影監督・編集 小美野昌史
音楽 後藤次利
出演 佐々木心音、湯江健幸、風祭ゆき、久保田悠来、真由子、山内ツトム、金山一彦、上杉隆
「福島第一原発、二十キロ圏内に迫る!」ということで大鶴義丹が全編南相馬現地ロケでお送りする人間ドラマ。佐々木心音初主演作!って麗々しくうたってるのは何事かと思ったが、この映画製作に二年半かかったとかで、そのあいだに『フィギュアなあなた』ができあがってしまったのだ。そんなわけで出し遅れの証文ぽい佐々木心音初主演作だが、結果としては悪くなかったか。これ、震災直後に公開されていたらさすがに頭を抱えていただろうからね。今なら笑って許せるくらいの余裕はあります。
IT長者田口源太(湯江健幸)は、投資に失敗して大損失を出し、愛人兼秘書の恋人も放り出して夜逃げの途上にあった。愛人は借金相手に犯されながら電話で「社長、早く戻ってきてください……戻ってきてください……」と泣いているという状況に、田口は携帯を踏みつぶして耳をふさぐ。それにしても源太、会社ではノートパソコンで株式市況を見てるだけで、昼間から下着姿の秘書とワインを飲んだり、二人で踊ったりしてるだけ。そんなだから会社つぶれるんだよ!と思ったら、後半、そのとおりの反省をしていた(被災地でひろった電話で、捨てた愛人に詫びる独り言というなんともいえない描写)。わかってないわけじゃなかったのね。
さびれたガソリンスタンドに寄ると、のろのろと出てきた男は「あんた、テレビの人?」と露骨に敵意を示す。演じるは上杉隆!「線量計を送りつけてきて、線量を測ってくれって言ってくるんだよ。断ったら国民の義務だとかって文句を言う。自分で来ないのは放射能が恐いからなのかね」と棒読みでお得意の大手マスコミ批判をかます上杉隆。すでにいろんな意味でお腹いっぱい。
そういうわけで、田口がたどりついたのは南相馬に住む叔母(風祭ゆき)の家。夫(田口の兄)は早くになくし、娘ミユ(佐々木心音)と二人で暮らしている。ミユはちょっと頭が弱い子で、学校でもいじめられ、仕事をはじめても長続きせず、いまは「いわゆるニート」状態。田口にもぶっきらぼうに「いてもいいよ」とか言ってるだけ。一方で叔母のほうは妙になまめかしく、「あの人の背中にそっくり……」と言って風呂上がりの田口の背中をふいてやるなど淫靡な雰囲気がたちこめる。さすが風祭ゆき、還暦でも現役だ!
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