『夢と狂気の王国』 -幸せなどのために映画を作っているのではない。マスコミが言ってはならないジブリの「狂気」とは (柳下毅一郎) -2,439文字-
『夢と狂気の王国』
監督・撮影・編集・ナレーション 砂田麻美
出演 宮崎駿、鈴木敏夫、高畑勲
『エンディングノート』で一躍注目を集めた新進気鋭のドキュメンタリー作家砂田麻美がジブリの内幕に迫るドキュメンタリー映画である。いや正直言うと『エンディングノート』とかどうでもよくて、興行成績的には苦戦が予想された『かぐや姫の物語』の宣伝用に公開されたとかそういう思惑もまあ関係なく、ジブリを「夢と狂気の王国」と言い切られてしまったらーーいやもちろん宮崎駿がまったき狂人であることはみんな知っているわけだけど、それは一般マスコミにおいては言ってはならない真実であるわけだし、こうも堂々と言われてしまったら、それは中身を見てみたくもなる。むさいおっさんやマニアなら嫌がるかもしれないが、可愛い若い女の子ならこの爺も取材受けるんじゃね?という鈴木プロデューサーの深謀遠慮もあって、見事潜入に成功した砂田麻美の前にひろがる狂気の王国とは? そしてみんなが知りたいジブリ社内保育所の実態とは!?
砂田麻美がちょっと舌っ足らずなナレーションで語る撮影のはじまりは2012年、『風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』の製作は佳境に入りつつある。というか、これはもう何年も佳境なのである。宮崎駿は脚本を書かず、直接絵コンテを描いてゆくのだが、現在は絶賛コンテ製作中。しかしコンテが完成してから作画をはじめるのでは絶対に間に合わないので、すでに前半の製作は進んでいる。つまり誰一人結末がどうなるのかわからないまま絵を作り、声優を決め……たぶん宮崎本人にも結末がどうなるかはわかっていないまま作っているんだから恐ろしい。映画ではもっぱら好々爺然とした宮崎の姿がとらえられており、エプロン姿でラジオ体操をしたり、社員たちに時代劇の所作を演じてみせたり。「狂気」を期待して見ると拍子抜けということになるかもしれない。
最大のクライマックスは主人公の声優に悩んだあげく、「庵野とかどうかなあ?」と言い出す場面であろう。その話をするうちに宮崎一人が盛り上がってゆき、スタッフたちが押し黙ってしまうあたりの呼吸が絶品。鈴木プロデューサーが「冗談じゃないからね、いい……実は『風立ちぬ』の主役の声どうかなということになってね。オーディション受けて」と電話をかけると、庵野秀明は「宮さんに言われちゃ断れないから……」とおっとり刀でかけつける。オーディションでは(やがてみなが映画で知ることになる)棒読みでセリフを読みあげ、二つ三つ読んだだけで満面の笑みを浮かべた宮崎駿が「もういいよ。上がってきて」と読み戻して主役をふる。
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tags: ジブリ ドキュメンタリー 宮崎駿 砂田麻美 鈴木敏夫 高畑勲
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