　『黒執事』　-また高笑いする悪役・・・その謎が解かれることは決してなさそうである (柳下毅一郎) -3,600文字-

2014年01月27日 20時00分　
カテゴリ：殺しの映画レビュー
タグ : さとうけいいち • キャハハ • 伊武雅刀 • 優香 • 剛力彩芽 • 大谷健太郎 • 山本美月 • 水嶋ヒロ • 高笑い • 鰺坂輝国 • 黒岩勉

監督　大谷健太郎、さとうけいいち
脚本　黒岩勉
撮影　鰺坂輝国
音楽　松浦晃久
出演　水嶋ヒロ、剛力彩芽、優香、山本美月、伊武雅刀、岸谷五朗

ico_yan 　大ベストセラーとなりＴＶアニメ化、そして満を持しての実写映画化となった枢やな原作のコミック『黒執事』 、ところが映画化にあたっては時代を130年後にして舞台を別の国に変えたという。それ、逆に何が残ってるの？　気になったので一応原作を読んでみようと思ったのだが、三巻くらいであえなくギブアップ。この幼稚なストーリー、無茶苦茶な設定を映画にするんじゃさすがに……と水嶋ヒロと剛力ちゃんには同情しないでもなかったんだが、映画のクレジットを見るとプロデューサーに齋藤智裕の名前が！　ヒロ、主犯じゃねーか！

さて未来。

世界は「女王」が支配する「西側諸国」とそれ以外の「東側諸国」の二台ブロックに別れていた。「女王の犬」と呼ばれる密偵たちは「女王」の支配のために働いている。「東側某国」で玩具メーカーファントム（Funtom）社を切りまわす若き天才が幻蜂清玄伯爵（剛力彩芽）である。清玄の両親は十年前に何者かに殺され、娘は行方不明になった。その後幻蜂家の隠し子と称する清玄が忽然とあらわれ、伯爵号を継いだのである……ってそれで清玄の正体がわからなかったらどうかしてるっつーの。

若き清玄を支えるのがスーパー執事のセバスチャン（水嶋ヒロ）。ドジッ子メイド（山本美月）が次々にしでかす不始末も秒速で片づけ、そのたびにドヤ顔で「ご用をお申し付けくださいませ、ご主人さま」とキメ台詞。というわけなんですが、この設定、ヴィクトリア時代英国を舞台にしている原作からどの程度改善されたのか。たしかにヴィクトリア時代で剛力ちゃんが伯爵ですって言ってたら失笑ものだろうけど、それが「東側某国」になったからってリアリティが生まれるわけではあるまいよ。

だがこちらのそんな感慨は知らぬまま、東側某国では人間が突然ミイラ化する怪事件が発生し、「悪魔の呪い」と呼ばれていたのだった。その調査におもむいた剛力ちゃん、女性が大量誘拐されている現場に女装して潜入、わざと捕まってピンチに陥る。その場に颯爽とあらわれるヒロ。目にも止まらぬナイフ（食事用）さばきで敵をばったばったと倒す。

「幻蜂家の執事ならば、これくらいは当然でございます」

だがボスは卑劣にも剛力ちゃんを人質にとる。「ワハハハハ」と高笑いするボス。また高笑いする悪役か……だがこのくらいで驚いていてはいけないのであって、この映画では悪役はほぼ全員高笑いすることになっています。おとなしく言われたとおりにナイフを捨てると、ボスはヒロに向けて銃を撃つ！　額に穴を開けて倒れるヒロ。だが剛力ちゃんは驚かない。

「いつまで遊んでるんだ。早く起きろ」

仕方ないなあ……と起きあがるヒロ。

「てめえ、なにもんだ！」
「いえ、私はあくまでも執事でございます」

そして目にも止まらぬ動きで銃を奪い、ボスを叩きのめす。

「あくまでも執事でございますので」
「あくまでも」

は！というわけでヒロは実は悪魔なのだった。「悪魔でも執事」　なんだよそれ！　なんと剛力ちゃんはヒロと契約して悪魔を執事として使役していたのだった。ぼくはそこらへんでコミックを放り出してしまったので、どこでどうやってどういう契約を結んだのかは知らないのだけれど、たぶんレメゲトンは読んでない。剛力ちゃんが死んだら魂を奪われる契約らしいんだが、それが何を意味するのかはもちろん最後まではっきりしない。悪魔に何ができてどういう縛りがあるのか全然わかんないもんで、駄洒落の思いつきから先には一歩も進まない。どうしたもんかなあ。