柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『ねこにみかん』 ネコ地獄映画と思いきや・・・町おこし映画でまさかの問題作登場!(柳下毅一郎) -2,958文字-

FireShot Screen Capture #235 - 'ねこにみかん公式サイト 3月22日(土)より、シネマート新宿・心斎橋ほか全国順次公開' - nekonimikan_com

ねこにみかん

製作・監督・原案 戸田彬弘
脚本戸田彬弘、上原三由樹
撮影 根岸憲一
音楽 福廣秀一朗
出演 黒川芽以、大東駿介、竹下かおり、隆大介

 

ico_yan和歌山県有田市有田川町発!

えー有田と言えばみかん。でももはや地方発映画もそれだけでは成立しない時代なので、ここはハイコンセプトにみかん+……ねこ! そう今映画界で流行りと言えばネコ映画。これが上映中のシネマート新宿では猫侍とかいう映画も上映中。まさかの猫地獄。いやね、ネコ好き女子だって、ネコと言えばなんでもいいってわけじゃあないだろう。こういうのって逆に女性を馬鹿にしてるよねえ。ともかくそういうわけで「ねこにみかん」という何やらことわざのようなタイトルの映画ができあがってしまったわけだが、まあそういうねことみかんを中心にしたはーとうぉーみんぐな物語を見せられるんだろうなあ……といささか暗い気持ちで映画館に出かけると……

主演は「もう一人の黒川」こと黒川芽以。真知子(黒川芽以)は恋人智弘(大東駿介)の実家にやってきた。和歌山県有田市、みかん畑にかこまれたのどかな田舎だ。真知子が智弘の実家の前で待っていると、次々に帰ってくる妹たち

「こ、こんにちは……」と声をかけても「あ、そう」とみなそっけない。帰ってきた母親に「お、おかあさん……」

「ああ、わたし母親じゃないのよ。まあ入ってけば」
「……わたし、歓迎されてないのかな……」
「あー、うちみんな独立したネコみたいな人間だから」

 え?ひょっとして「ねこにみかん」ってそういう意味なの? 弟は登校拒否の引き籠もり隆志17歳、次女さやか高校二年17歳、長女由美17歳高校二年。

「え? 三つ子なの?」
「いや、三人全員母親違うんだ」

!?!

隆志の母親は高校教師の成美42歳、通称“ハハ”。さやかの母親はスナック勤務の佳代子35歳通称“カカ”。由美の母親は家事一切をとりしきる“ママ”こと里美47歳。そしてすべての元凶は釣具店兼よろずやを経営する“チチ”正一郎(隆大介)。智弘は死別した前妻千春の連れ子だったので、誰とも血縁関係はない。えええ?と混乱する真知子。てか観客。これつまり一夫多妻家庭の話なの!? 地域おこし映画で有田川町議会が「サポーター」になってる映画で!? いいのか有田市民。クレジット見てると「サポーター」として大量の出資者の名前がリストアップされてるんだが、みんなこの内容で良かったのか。いやあ有田市って進んでるなあ。智弘の同級生が親子ほど年の違うハゲオヤジと結婚してたりとか(元高校教師と生徒のカップルだという。いいのか!?)、いろいろ性的に開明的な有田川町である。ちなみにそのオヤジ

「まああの家はちょっと変わってるから、大変だろ」

とか言ってるけど、いや「ちょっと」じゃないし! てか認められてるのか!! 有田川町進んでる!! というか智弘、そういう大事なことは前もって説明しておこうよ。プロポーズとかする前にさ!

 

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“チチ”は寡黙な男で、食事を済ませると、「じゃあ、帰るから」と離れの部屋に戻って寝る。「うち、微妙な関係だからね」てっきり臥所が当番制で……みたいな話かと思っていたのだが、どうやらそういうことは一切していないという描写らしく、そこらへんには触れられない。“チチ”は寡黙で女性たちの自由を許しているのだが、普通に考えてこういうタイプの男性って、一夫多妻の家族なんか作らないんじゃないか? むしろもっと雄度と支配欲が強い人間がやることではないかと思うのだ。どうやら智弘の母親が死んだ直後、「闇をかかえた眼」にひきつけられた女たちが次々に惹きつけられてしまい、そのままなし崩し的にやった結果がこうなったということらしい。つまり“チチ”はわりと流されやすく気弱で図々しい優男らしいのだが、そういう男って普通女のあいだをふらふらするほうだよね。

そんな複雑な家庭なので、当然風紀も乱れまくっている。真知子は“チチ”と二人きりになるだけでビクビクしているし、スナック勤務の“カカ”はやたら色気をふりまいて、血のつながっていない引き籠もり息子の前でスリップ一枚で挑発。“カカ”、しまいには客の男を家に連れこんであえぎ声を……真知子、とうとう我慢できなくなって

「なんなんですかこの家は! みんな好き放題やって!」
「あんた、わたしたちがここまでどんだけ大変だったか知らないでしょ。わたしたちにもお互いに守ってることがあるの」

 まあ、そりゃ大変だよね。でも

「じゃあ、守ってることってなんなんですか!」
「迎えることだよ」

 どんなときも迎えてくれる人がある。それが家なのだ。とても機能しているとは思えないわけですが。真知子が泣いて飛び出すと、智弘は「やっぱ、理解してもらわれへんのかなあ」と頭を抱えている。普段は寡黙な“チチ”も「迎えにいかなきゃだめだ」と諭す。いや、それは全部おまえのせいだから!

町おこし映画で一夫多妻みたいな問題作をやってしまう冒険っぷりには感心する。でも、この話をブラック・コメディでもエロ映画でもなく、ひたすら陰々滅々とした家族ものとして描くっていうのは想像を絶している。だから17歳の姉妹の初恋とか、「恋愛って汚くない?」って悩むとかそういう甘っちょろいエピソードが出てくるんだが、普通に考えてもっと壮絶な話になるはずじゃないのか。そもそもこういう話を作るなら娘なり息子なりを主役にしなきゃならないわけで、よそからやってきた女の子がこの家族を見てカルチャーギャップに悩むとかって馬鹿にしてんのかと。息子が引きこもっているのも、てっきりイジメか何かのせいかと思っていたら、なんと終盤になって隆志は“カカ”のことが好きで、“カカ”を監視するために学校にいかずに家にいたのだということが判明する。しかし、その監視まったく役に立ってないよね!

そんな中でついに智弘との結婚を決意する真知子。

「御両親に相談とか……」
「うちは母はいません。父は仕事人間でわたしに関心がないので……」

 だが結婚と聞いていきなり父親が乗り込んでくる!

母三人父一人と向かい合うスーツを着た真面目一本槍の男という珍妙な図。

「真知子はわたしの大事な一人娘です。わたしとしてはこんな野蛮な家に嫁にやるのは賛成できません」

 とこの映画に出てきた人の中ではじめてまともなことを言う真知子の父! しかし真知子は

「わたしにはわたしの人生がある。お父さんの指図はうけないわ」

 とにべもない。ホテルを取るんで泊まっていってもう一度ゆっくり相談して……と言われても、二人は平行線のままで和解も何もしない。なんでこんなシーンが入ってるのか本当にわからん。「わたしにはわたしの人生がある」と干渉をはねのける真知子なのだが、それってネコ的バラバラ家庭と何も変わらないような……「言わないとわからない!」と叫んでいた真知子だが、結局「言っても通じ合わない」という身も蓋もない結果であった。結局、自分を迎えてくれるのはこの家しかない……と結婚の決意を固める真知子であったが、子育てにはあまりいい環境とは言えないような気がいたしますね。

 

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