『拳銃と目玉焼』 40越えた自主映画おっさんが一念発起!真に作りたかったヒーロー映画を作った (柳下毅一郎) -2,656文字-
『拳銃と目玉焼』
監督・脚本・照明・撮影・編集 安田淳一
出演 小野孝弘、佐伯夕乃、矢口恭平、紅萬子
世の中にはいろんな映画がある、というのをつね日頃から訴えているわけですが、そういうぼくもまだまだ知らないことは多い。日本は広い。知らない映画は多い。「 京都でビデオ撮影業を営む男性が自主制作した新感覚ヒーロー映画」「8万円のカメラと750円のライト、約3.5人のスタッフで撮られたヒーロー映画」である。タランティーノとロバート・ロドリゲスは世界の金のない映画バカに勇気とインスピレーションを与えてくれた。映画学校に行っていなくても、たとえ金がなくても映画は作れる!
そういうわけで40越えたビデオ撮影業の自主映画おっさんが一念発起、真に作りたかったヒーロー映画を作ってしまったわけである。いや、こういうのは嫌いじゃない。他人の金をあてにして綺麗事で作る「地域活性化映画」なんかよりはずっと好感が持てるし、一人でなんでもかでもやってしまうフミキ主義も圧倒的に正しい。こういう無駄な情熱の空回りを待っていたのである。で、それを前提で言いますけど、この映画全然悪くないです。ぼくはたいへん好感を持ちました。役者もスタッフ(というか約安田さん一名だけど)もたいへん頑張っており、好感が持たれる出来でした。情熱だけで作った映画なんで、ごくごくシンプルなお話なんだけど、役者は全員達者で不愉快なく見られる。
喫茶ノエルの常連客である新聞配達の志朗(小野孝弘)は、毎朝来ては「いつもの……」と目玉焼きを注文してゆく内気な中年男である。実は看板娘のユキちゃん(佐伯夕乃)にホの字で、それは常連客のタクシー運転手やママ(紅萬子)ら全員承知なのだが、あえて触れないでいる生暖かい関係だ。ある日、自宅への帰り道、志朗は不良のオヤジ狩りに出くわす。なけなしの勇気をふりしぼって飛び出した志朗だがたちまちボコボコに。だが狩られていたはずのオヤジが自作の空気銃で応戦(おっさんそれ違法なんじゃ……)、助けてくれる。
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