柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『おかあさんの木』 色気もなくしてただのおばあさんになってしまった鈴木京香の演じる愁嘆場。婆さんの昔話の無間地獄に巻きこまれて、役人も大変(柳下毅一郎) -3,074文字-

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『おかあさんの木』

監督・脚本 磯村一路
撮影 喜久村徳章
出演 鈴木京香、志田未来、三浦貴大、平岳大、田辺誠一、奈良岡朋子、波岡一喜、松金よね子、大杉漣

 

face えー、これがどういう話かと言いますと、大正から昭和にかけての時代、七人の男の子を産んだおかあさんがおります。七人の男の子は順番に徴兵にとられて旅立っていく。一人旅立つごとにお母さんは庭に桐の木を植える。無事に帰ってくることを祈って……だが一人、また一人と息子の戦死の報が入ってくる。はたしておかあさんは息子に会えるのだろうか……?

国語教科書に長年掲載されていた児童文学が原作だというのだが、何が驚いたって東映系劇場でかかっていた特報である。黒バックに白文字で「長男の一郎は北支戦線で戦死しました。次男の二郎は……」という具合にストーリーを全部説明してしまうのだ。それで「はたしてお母さんは、息子の顔を見られたのでしょうか!?」いやこの話を映画化しようって考えたのは誰なんだ! 木下工務店か!? あるいは木下工務店かどこかに鈴木京香のファンがいて、鈴木京香主演ならどんな映画にでも金出すとかいうことになっているのかもしれない。そうでも考えないとこれほど起伏もなくつまらない話をわざわざ実写で映画化しようと考える理由がわからない。劇場に行くと公開二週目にもかかわらずバルト9のいちばん小さいスクリーンで一日二回の上映。客は十人ほどだった……

 

 

物語は現代からはじまる。区画整理事業の地域に立つ家と、その裏庭に生える七本の桐の大木。区画整理事業なので木を切らなければならないのだが、そのためには地権者の同意がいる。同意を取り付けるため、地権者に会いに行くお役人二人。老人ホームでは「ちょっと認知症の気があるので……」とあらかじめ釘を刺される。出てきたのは田村サユリ(奈良岡朋子)。

「木を切ってはならん! あれはおかあさんの木なんじゃから……」

 と1915年、郵便配達人田村謙次郎の元へ嫁いでからの「おかあさん」こと田村ミツ(鈴木京香)の人生を語っていくのである。そこからは予告編で語られた話が延々と続く。一部謙次郎が結婚式に遅刻しそうになるとかコメディ仕立てになってたりするんだが、これが死ぬほどダサイというか滑ってるのがなんとも。というわけで毎年のように一郎から順番に生まれ、そのたびに産婆(松金よね子)が騒ぎ、七人生まれたところで謙二郎は心臓病であえなく頓死。やがて成長すると一郎から順番に「お国のために行ってまいります!」と出征し、ミツが庭に木を植えては「一郎や、元気でやってるかい」と話しかけ、そして紙切れ一枚で帰ってくるのがくりかえされる。乱暴者だった二郎、虚弱な三郎、四郎と順番に出征するが、二郎をのぞく三名がたちまちに戦死し、ミツは「愛国の母」として讃えられることになる。だが母は靖国の神となるよりも、生きて帰ってくることを望んでいるのだった。

映画自体はこれまで見たことがないくらいの強烈な副音声映画っぷりで、全員が考えてることをすべて口に出す上に、いわずもがなのことを映像化までする。たとえばミツが子供のできない姉の上に養子に出した六男誠が出征するシーンでは、久しぶりに会いに来た誠が軍服を着ているのを見て出征を悟る→「どうして……?」→「ぼくの家には、戦える者はぼくしかおりません……ありがとうございました。さようなら」→そこで誠の幼年期の笑顔がフラッシュバック!→思わず「生きて帰ってきて!」と追いかける→道の途中でふりかえる誠

いやあここまでしつこく馬鹿丁寧な演出がありうるのか、と言いたくなるくらいで本当に寝ていても話がわかる。さらに同じことが何度もくりかえされるので、途中自分が夢の中にさまよいこんだのかと思った。実際そうだったのかもしれない。結局最後まで見ても、そもそもなぜ出征した子供のかわりに桐の木を植えようと思ったのかすらわからないままだし。

 

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