柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『きみと見る風景』 こちらは制作総指揮が市長!無理矢理合併した市には寄って立つべきアイデンティティなど存在しない。ならば映画だ!(柳下毅一郎) -2,376文字-

FireShot Screen Capture #047 - '高山市合併10年記念映画 「きみとみる風景」 : トップ' - www_takayama-movie_jp

 

きみと見る風景

監督・脚本 今西祐子
製作総指揮 國島芳明
撮影 下垣外純
出演 松田まどか、中田裕一、森林永理奈、天野雄大

 

face 岐阜県高山市合併十周年記念映画! 群青色の、とおり道に続いてこれ。なんでこんなにどこもかしこも十周年で映画作ってるの!? というところでふと気づいたんだがこれまさに「平成の大合併」のせいじゃないか! 1995年の合併特例法にはじまる「平成の大合併」のピークは2005年ごろ。この合併により日本の市町村の数は半分近くにまで減少した。しかるに財政的理由だけで無理矢理合併した市には寄って立つべきアイデンティティなど存在しない。ならば映画だ! 映画によって新しく誕生した広域市の良さを住人にも外の人にもアピールすればいいじゃないか! というような発想が多かれ少なかれあったのではなかろうか。しかし、ということはこの二本はほんの序の口に過ぎず、これから次々に合併十周年、二十周年、二十五周年記念の映画が日本中からやってくるということなのか!? いやあまったく役人はロクなことをしない。みなさんも、自分の住んでいる自治体の税金が妙な映画事業につぎ込まれていないのか、監視していくべきかと思われます。

さてそんなわけでほとんど同じような経緯で作られたと思われる本作と『群青色の、とおり道』だが、あちらが企画原案市長ならこちらも制作総指揮が高山市長國島芳明。見ているとストーリーまでもが双子のようにそっくりでまるでテンプレでもあるのかと疑いたくなるほどである。ちなみに監督には長編デビュー作の今西祐子。特別なことをするでもなく、よく言えば着実な演出。ただ、場面転換に、特に時間経過を示すわけでもないフェイドアウトを使うのが気になる。こういうの最近流行ってるんだろうか? 主演には2000年に『NAGISA』でデビュー、キネマ旬報や報知映画賞などで新人女優賞を獲得した松田まどか。その後はいまいちぱっとしない映画人生が続いていたが、岐阜県高山市出身という縁でひさびさにヒロインの座を得る。そんな感じで映画の規模も地方創成映画にふわしくこじんまりとした感じ。ちなみに本作のキーマンは松田まどかの相手役を演じ、プロデューサーもつとめている中田裕一と思われる。高山在住で酒屋を営むかたわら劇団を運営。高山の映画文化振興のために旗をふりつづけている地元愛の人だ。まあこういう人たちが高山の良さを訴えようと高山市のお金で作った映画が……

 

 

フォトグラファーのあずさ(松田まどか)は「郷愁を感じる旅」をテーマにした写真特集の記事を依頼されて高山市に出かける。後輩はすでに表紙を手がけているが、なかなか芽が出ないままのあずさ。幼いころに過ごしたことのある高山でなら自分の殻を破れるかもしれない……と高山市に出かけたのはいいのだが、撮る写真撮る写真どれも静物写真。実はあずさは人間が苦手で、人力車に乗っても「人の少ないほうへ行ってもらえますか」と頼む人間嫌い。うーんこの仕事向いてないんじゃ……その人力車の車夫こと重太(中田裕一)はあずさとは真逆の明るくて人なつっこい性格である。写真を撮りにきたと知るとあちこち名所を案内してまわり(高山市内観光パートではかつて村芝居がおこなわれたという白山神社や明治から続く蕎麦の名店、手打ち蕎麦の恵比寿などが登場。しかし、せっかく店まで行ったのに蕎麦が出てこないとはいかに)、かつてあずさが高山に住んでいたと知ると「いいとこでしょ!」と郷土愛を押しつける。

 

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tags: 下垣外純 中田裕一 今西祐子 國島芳明 天野雄大 岐阜県 市長 平成の大合併 松田まどか 森林永理奈 町おこし 高山市

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