柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『サクラ花~桜花最期の特攻~』 あの国産スプラッターの旗手が撮った東京都指定「優良映画」。しかし作風自体は昔とまったく変わっていない・・・ (柳下毅一郎)

FireShot Screen Capture #057 - '映画サクラ花 桜花最期の特攻 公式サイト' - www_sakurabana-movie_jp

 

サクラ花~桜花最期の特攻~

監督 松村克弥
脚本 菅乃廣、松村克弥、亀かずお
撮影 はやしまこと
音楽 坪野竜也
出演 役所広司、大和田健介、緒形直人、林家三平、橋本一郎、渡辺裕之、三山ひろし、キタキマユ、磯山さやか

faceallnigthlong えー、世の中には不健全図書の指定というものがありまして、地方自治体が青少年の健全な成長を阻害すると判断したものに「不健全図書」のラベルを貼って未成年の目には触れないようにすることが行われている。この制度、もっぱら「不健全図書の排除」に焦点が当てられているのだが、もちろん「青少年の健全な成長」のためにふさわしい娯楽を推奨することもおこなわれている。毎月「不健全図書」と同じく「優良映画」が発表されているのだが、2015年11月の東京都の優良映画として指定されたのがこれ、『サクラ花~桜花最期の特攻~』である。

と聞いていろいろ戦慄を覚えてしまったわけだが、本作、監督・脚本をつとめるのが松村克弥。そう、あのーーと言っても覚えている人も少なくなってしまったかもしれないが、あの『オールナイトロング』のーー監督である。90年代悪趣味ブームまっさかりのころ、国産スプラッターの旗手として大いに注目を集め、良識を派手に逆撫でして、しまいには発売禁止作品まで撮ってしまったあの松村克弥。まさに不健全映画の象徴ともいうべき監督だ。その彼が戦後七十年記念で戦争映画を作ろうと思いつき、それが茨城県の町おこし映画として実現し、実に一億円の予算を集めて映画を撮りあげ、共産党系の自主上映団体である映画センター全国連絡会議の配給によって全国上映にこぎつけ、ついには東京都の優良映画になってしまった。なんという皮肉だろうか。そして『オールナイトロング』シリーズのことを知っている人なら容易に想像できるだろうが、松村監督の作風自体は昔とまったく変わっていないのである……!

 

 

「散る桜、残る桜も散る桜……」とはじまる役所広司のナレーション。部隊は鹿島の海軍神之池基地である。整備兵尾崎(大和田健介)が赴いたのは特攻兵器「桜花」部隊。意気込む尾崎に「神風吹けどサクラ散る、だよ」と自嘲する先任であった。「桜花」は第二次世界大戦末期に開発された特攻兵器である。桜花は前方に爆弾を積んだロケット・ミサイルだったが、航続距離が短く、兵器としては実用にならなかった。そこで一式陸攻にぶらさげるかたちで敵艦近くまで運び、そこで切り離したのちは搭乗した特攻兵が操縦して敵艦に命中させるという発想が生まれた。日本軍が考案したさまざまな特攻兵器の中でも指折りに愚劣で残酷な兵器として名高い。米軍はすぐに発射前の一式陸攻(桜花の重量のせいで動きが鈍くなっている)を狙えばいいと気づき、出撃のたびに一式陸攻搭乗員も含めてほぼ全員が犠牲になったのである。当然戦火は微々たるものだった。まあこの手の映画に時代錯誤はつきものなので、彼らはそんなことは先刻承知なのである。

さて、ついに桜花出撃の日が来る。実はこの映画、ほとんど全編特攻に向かう一式陸攻の中で展開する。舞台劇のようなディスカッション・ドラマなのである。そのために一式陸攻の実物大模型を作っている(この模型を茨城県阿見町のJA倉庫に置いて、近所の主婦たちから差し入れをもらいながら撮影をおこなったのだという)。現在は神栖市に展示してあるそうだが、そういうことまで含めて町おこし映画ということなんだろう。尾崎整備員をはじめ七名、それに桜花搭乗員を加えて八名が搭乗した一式陸攻は、鹿児島の鹿屋基地から一路沖縄へ向かう。三機編隊の攻撃隊だが単機飛行のグラマンに発見された!

ヒューガガガガ(機銃音)

「二番機が撃墜されました!」

(言うまでもないだろうが、この映画では事件はオフカメラで起こり、すべてが音と台詞による説明で進行する。いわゆる「エド・ウッド方式」の演出である。画面の中で描写されるのは唯一……)

……機銃掃射を受けた白井上等兵、食べていたおにぎりも血染めになって転がる。やたらと派手な流血描写はさすが松村監督の真骨頂。

「機長! 燃料計が損傷を受けて、燃料の残量がわかりません!」
「よし! 機体を軽くするために機銃も何もかもすべて捨てろ!」
「はい!」
「……まだ捨てるものがあるだろうが!」
「え!……まさか、白井さん、捨てるんですか!」
「そうだ!」

と命じるのは非情な穂積機長(緒形直人)。

「白井兵曹を二階級特進!礼!」

と敬礼して死体を機外へポイ!

副操縦士富田(橋本一郎)は尾崎に妻と一緒に五所平之助監督『マダムと女房』を見に行ったことを語り、「わたしの青空」を口ずさむ。

「♪狭いながらも楽しい我が家~」

ヒューガガガガ!

血まみれの近藤兵曹(林家三平)

「二階級特進!」ポイ!

ヒューガガガガ!

「磯谷兵曹の腕が!」

 

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