柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『風のたより』 カフェ+震災!カフェ映画にもついにハイコンセプトの波が訪れた!(柳下毅一郎)

風のたより

監督 向井宗敏
脚本 おかざきさとこ
撮影 今井哲郎
音楽 栗本修
出演 新木優子、大杉漣、加藤雅也、佐生雪、平田薫、柳俊太郎

 

face さて、世の中にはカフェ映画というジャンルがあるという話をこれまでさんざんしてきたわけだが、これはカフェ+震災! カフェ映画にもついにハイコンセプトの波が訪れた。東日本大震災の傷跡いまだ消えぬ仙台を舞台に、カフェを新装開店しようとする人々の絆を描くというのだが、見ているとこれ震災もカフェも関係ないんじゃないか?という気がしてくるのだから不思議だ。しかし、震災でもカフェでもないとしたら、この映画のテーマはなんなのだろう? ペンキは丁寧に塗りましょう、かな……

 

 

くるみ(新木優子)は東京で友人とカフェを開こうとしていたが、その計画はひょんなことから頓挫する。共同経営予定の三人組の一人が恋人を追いかけてNYに行ってしまったのである。残された二人、「二人では無理だよね~」と直前ですべてをあきらめる。そのころ仙台に住むくるみの祖父健(大杉漣)は東日本大震災で流された喫茶店「風のたより」を再建しようとして準備中であった。開店準備は順調に進んでいたが、ある日突然狭心症の発作を起こして健は倒れてしまう。一報を聞いて病院に駆けつけたくるみに、健は「風のたより」開店準備のあれこれをやってくれないかと依頼する。くるみは「どうせ祖父が回復するまでのピンチヒッターだから」と仕事を引き受けるのであるが……

くるみは「どうせ……」が口癖で、友人ユースケ(柳俊太郎)からも「また“どうせ病”か……」と言われるほど、昔から根気がなくてひとつのことをやりとげられないでいる。東京で専門学校に行っても中退し、ようやくなしとげられるかと思ったカフェにも挫折。健はそんなくるみに心をいため、「あの子は自分ができないと思っているだけで、本当はできる子なんだから」と親バカを発揮して、せめて自分の“喫茶店”の開店準備をやらせようと考えたのだ。そのために親友の医者(加藤雅也)に頼みこんで、当分ベッドから出られないということにしたのである。新装開店は九月の予定、まだ四ヶ月もあるから余裕だろう……そんなたくらみも知らぬまま、開店予定地に行ったくるみ、いまだ壁にペンキも塗ってない状態を見ていきなりやる気ゼロ状態。祖父の友人でボランティアを斡旋している市役所職員に手伝いを依頼する。

派遣されてきたのは女子大生さくら(佐生雪)。就職活動も連戦連敗、ボランティアもどこに行っても一週間でやめてしまうというくるみに輪をかけたようなダメ少女である。人も来たし、とりあえず壁でも塗るか……とくるみがローラーでペンキを塗りだすと、さくらは一言

「雑です」

最初は端から刷毛で塗っていくものだ、とぶっきらぼうに言うさくら。くるみはその言葉にしたがい壁をきっちり塗り、そこにレンガを貼って内装をととのえる。ちなみにさくら、かたくなにくるみになじまもうとせず四角四面でぶっきらぼう……といった欠点はあるものの、仕事は丁寧だし、やることはちゃんとやる(別にきっちりやるからといって仕事が遅いわけではない)子で、なぜそんなにボランティア先でダメ扱いされまくったのかさっぱりわからない。対人関係が不得手ということらしいが、このくらいなら全然問題ないだろう。ダメ少女の設定を作るのはいいけれど、それをうまいこと「でも実はやればできる子」に落とし込めなかったので、最初から何がよくないのかわからない感じになってしまったということか。

 

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