柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『猫なんかよんでもこない。』 2016年猫プロイテーション第一弾。このあとどんどん猫プロきますからみなさん覚悟しといてください (柳下毅一郎)

 

猫なんかよんでもこない。

監督 山本透
脚本 山本透、林民夫
原作 杉作
出演 風間俊介、つるの剛士、松岡茉優、内田淳子、市川実和子

 

face プロボクサー志願の「犬派」の主人公が、兄が拾ってきた捨て猫二匹と同居することになって……という猫映画。現代のエクスプロイテーションとはなんなのかと考えることは多いのだが、今、いちばんエクスプロイテーション感を感じるのはこれ、どうぶつ映画。本作は2016年猫プロイテーション第一弾。このあとどんどん猫プロきますからみなさん覚悟しといてください。もちろん本作の見所は猫。子猫の「クロ」と「チン」の二匹が思いっきり媚びを売りまくる姿が存分に捉えられている。でも猫は猫なので勝手に遊んでいるだけだから、主人公が副音声ナレーションをうんざりするほどたっぷり入れ、四六時中猫相手に喋りかけているという……

 

 

「おーい! クロ、チン……無視すんなよ! 呼んだら来いよ」

いや孤独のあまり頭おかしくなったんじゃないかと言いたくなる独り言っぷり。うーん。

さて、本作は杉作(J太郎に非ず)による同名エッセイコミックの映画化である。ということは、この映画で描かれている通りのことが起こったということになってしまうわけなのだが、まあいくらなんでも映画的演出なのだと信じたいよ。映画だから主人公杉田ミツオはこんなに××なんだよね! だよね! まあ映画だったら××なのは当然と誰もが納得してしまうというのもどうなのかとは思うわけだが。

主人公杉田ミツオ(風間俊介)はB級ライセンスを所持しており、あと一勝でA級ライセンスに昇格できるところまできているプロボクサー、ボクシングに専念するという理由でバイトもせずに兄貴(つるの剛士)のところに転がりこんでいる。売れない漫画家の兄は、ある日、捨てられていた子猫を拾ってくる。雄の黒猫の「クロ」と小柄な雌猫の「チン」と名前をつけるが、世話をするのは居候のミツオの役目。

「オレは犬派なんだよ!」

……と文句を言っていますがたちまちのうちにデレてしまい、延々猫に向かって話しかける独り言地獄。と、家の中から猫の声が聞こえる、と苦情を聞いて大家(市川実和子)がやってくる。

「え……知らないですよ」

……ととぼけるが、そこにみゃあみゃあと子猫が

「あらあらあら」

 猫おばさんの市川実和子、猫の飼い方を何も知らないミツオにトイレのしつけ方から教えてくれる。それにしても、家賃がやたらと安かったり(新築2DKだが家具がまったくなくて生活感のかけらもない)、携帯電話を使ってる人が出てこなかったり、ミツオがVHSビデオを見ていたり、どうもかなり昔の話のようである。かといっていつの時代と設定されているわけではなく、風景は普通に現代なので、なんだかとても奇妙な感じがつきまとう。おそらくは原作と同じ時代ということなのだろう。なぜそんな設定なのかという推測なのだが、おそらくはミツオの猫の飼い方が現代にそぐわないものであるからではなかろうか。でも、猫おばさんの市川実和子や猫娘松岡茉優らのアドバイスは現代なんだよなあ。今ならもちろんインターネットで調べるのだが、ミツオにはそんな手段が禁じられているので、猫おばさんのアドバイスが頼みの綱。

そんなわけで猫と戯れながらロードワークもこなし、B級最後の試合に臨んだミツオ、見事勝利してA級ライセンスを獲得……というところで病院に行くと「網膜裂孔」と診断されてしまう。

 

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tags: つるの剛士 どうぶつ映画 ペット 副音声映画 山本透 市川実和子 杉作 松岡茉優 林民夫 淳子内田 猫プロイテーション 風間俊介

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