柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『世界から猫が消えたなら』 ああ、世界から岩井俊二が消えたなら、日本映画はどれだけマシなものになっていただろうか?(柳下毅一郎)

公式サイトより

世界から猫が消えたなら

監督 永井聡
原作 川村元気
脚本 岡田惠和
撮影 阿藤正一
音楽 小林武史
出演 佐藤健、宮崎あおい、濱田岳、奥野瑛太、石井杏奈、奥田瑛二、原田美枝子

 

face 来ました今年の大本命。何のって猫プロイテーションの! 本作は東宝で『電車男』や『告白』、『モテキ』、『寄生獣』や『バケモノの子』など数々のヒット作を企画、プロデュースしてきたヒットメイカー、川村元気の同名処女長編小説の映画化である。これは2013年の本屋大賞にもノミネートされた(受賞は百田尚樹の『海賊とよばれた男』)ベストセラー小説で……と書いていくだけでどんどん遠い目になっていくわけだが、ともかくそいつが満を持して映画化。監督はどんだけケツの穴の味が好きならこんな代物撮れるの?と聞きたくなる電通礼賛映画『ジャッジ!』の永井聡。いや、これだけ不快そうなものしか集まってない映画も珍しいが、マイナスとマイナスと猫をかければプラスになる可能性だって……

世界から猫が消えたなら、この世界はどう変わるのだろうか? 世界からぼくだけが消えたなら……

 

 

さて主人公の“ぼく”(佐藤健)は30歳の郵便配達。世の中に郵便配達人ほどつまらない人間もいないと思っていたのだが、それがロマンチックなストーリーの主人公になってしまうんだから不景気もきわまれり。そんな“ぼく”、ある日強烈な頭痛を覚えて自転車ごとこける(映画ではまるで壁にぶつかったかのようにロマンチックに空中を舞う姿で表現される)。病院に行くと、医師からは「悪性の脳腫瘍です」と言われる。

「えっ手術とか……」
「手術も難しいので……」

 とぼとぼと家に帰る“僕”。ドアを開けるとそこには“僕”とそっくりの男(佐藤健二役)がいて、愛猫キャベツをあやしているではないか。

「ど、どちらさまですか?」
「明日だよ」
「へ?」
「おまえ、明日死ぬから」

 明日発作が起きて“ぼく”は死ぬ。その男は、死にたくなければ世界から何かひとつものをなくす契約を結べと迫る。一つものをなくすごとに一日寿命を延ばすことができる。強烈な頭痛に耐えかね、契約を結ぶ“ぼく”。

「……なくすの、パセリでいいですか?」
「なんでおまえが決めるんだよ。こっちが決めるに決まってるだろ……そうだな、とりあえずその電話をなくそうか」
「え!?」
「電話なんかより命のほうが大事だろ!」
「……わかりました」
「じゃあ、明日が電話がある最後の一日だから。最後に電話かけたい人とかいないの?」

……そこで“ぼく”が選んだ相手は別れた元“彼女”(宮崎あおい)であった。宮崎あおい、なんと映画マニアが嵩じて名画座で働き、その二階に住んでいる(ちなみに上映してるのは『ファイト・クラブ』と『花とアリス』の二本立て)。仏頂面であらわれた彼女、

「なんで急に電話してきたの……」

 問われて“ぼく”は“彼女”との出会いを思い出すのだった。彼が家でDVDを見ているところに、間違い電話がかかってくる。慌てた“ぼく”はリモコンの操作を誤ってヴォリュームをあげてしまう。すると

「あ、ひょっとしてフリッツ・ラング監督の『メトロポリス』を見てらっしゃいます? かなり終わりのほう、メトロポリスが洪水に覆われる場面ですね。安心してください。子供たちは助かります……あっネタバレしちゃいましたか」
「いや、ぼくは安心して見る方がいいから大丈夫です」

……と知り合いになったというのだが、これジョルジョ・モロダー版とかじゃないからね! 電話から流れてきた音だけでこの反応ってシネフィルにしたってやりすぎだろう! 同じ大学に通う同級生だと判明した二人、自然とつきあうようになるものの、デートでは緊張してうまくしゃべれない。だが終わったあと、電話でならいくらでもしゃべれる。ぼくら、まるで電話するためにデートしてたみたいだね……と思い出にふける“ぼく”。

「ねえ、ぼくたち、なんで別れちゃったんだろうね」

 だが翌日、世界から電話が消えていくと、それとともに“彼女”との思い出も消えてしまう……

まあそういう話なんで、別に「猫がいなくなったら、社会構造はどう変化するのか」みたいなことを真面目に考察するSFじゃないし、もちろん巨大猫怪獣があらわれるわけでもない。死に直面した“ぼく”が、自分の過去にあったことどもを回想して、そのかけがえのなさに気づいていくという教訓的寓話なのである。「猫」は何かというと、両親、とりわけ死んでしまった母との思い出なのだ。だからこの映画を見る正しい態度というのは、「自分にとって大事なものはなんだろう? 世界から何がなくなったら自分は悲しいのだろう?」という問いかけなわけである。で、見ているあいだ、ぼくが何を考えていたのかというと、

「世界から岩井俊二が消えたなら、日本映画はどれだけマシなものになっていただろうか?」

 ということである。いや、別に岩井俊二に恨みはない(そもそもロクに見てもいない)。だが岩井俊二フォロワーの映画には日々本当にうんざりというよりない。

 

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tags: どうぶつ映画 佐藤健 原田美枝子 奥田瑛二 奥野瑛太 宮崎あおい 小林武史 岡田惠和 岩井俊二 川村元気 本屋大賞 永井聡 濱田岳 猫プロイテーション 石井杏奈 阿藤正一

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