『二重生活』 映画一本を費やして得た結論・・・ そのくらい尾行してないオレだって知ってる!(柳下毅一郎) | 柳下毅一郎の皆殺し映画通信

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『二重生活』 映画一本を費やして得た結論・・・ そのくらい尾行してないオレだって知ってる!(柳下毅一郎)

公式サイトより

 

二重生活

監督・脚本 岸善幸
原作 小池真理子
撮影 夏海光造
音楽 岩代太郎
出演 門脇麦、長谷川博己、菅田将暉、リリー・フランキー、西田尚美、烏丸せつこ、河合青葉、篠原ゆき子

文化庁芸術文化振興基金補助

 

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タマ(門脇麦)は某大学大学院の哲学科に在籍する修士二年生。そろそろ修論のテーマを決めなければ……というところで指導教官であるイケメン教授篠原(リリー・フランキー)に相談に行く。

「わたし、自分がなぜ生きているのかとかよくわからなくて、もやもや~としたものがありまして……じゃあ人に聞いてみればいいんじゃないかと思って、百人くらいにアンケートを取ってみようかと」
「うーん。そう、なら百人じゃなくて、むしろ一人に絞ってみてはどうかね?」
「え?」
「尾行だよ。まったく見知らぬ相手を尾行してみるんだ」

 本当の話なんと教授、たまたまソフィ・カルの『本当の話 』を読んでおり、そこに登場する「哲学的尾行」というストーリーに感化されていたのだった。

「ただし、尾行相手とは決してコンタクトは取らないこと。それがルールだ」

かくしてタマは見知らぬ人を相手に「理由なき尾行」をはじめるのだった……!

 

てなあ!

二重生活原作は小池真理子の同名小説。だからまあ、この大惨事の主犯はまず原作者であるとはいえ、こんな馬鹿な話がありうるか! たしかに人が哲学を学ぼうとする動機はそういうもやもや~としたものであるのかもしれない。だけどこいつは修士課程の二年生だ! そんなレベルは学部の教養課程で終わらせておくべき話だろう。おまえはいったい何を専門にして二年間研究してきたのか。リリー教授も、デリダとかバリバリにやってる現代思想の人らしいが(今やっている研究が「デリダなんかを歴史的に位置づけた……日本では珍しいものなので、それなりに話題になるのではないかと思います」とか言ってて仰天した。そんなポスト構造主義本、これまでに百万冊くらい出てるだろ!)、言うにことかいてソフィ・カルに感化されて尾行! 別にフランス語で読まなくたって、日本でもとっくにやってる人がいるよ! 塔島ひろみとか! そんな美大生のアート・プロジェクトみたいなものが修士論文! いまどきの大学院ってそんなに緩いのか!?

 

 

まあフィクション、フィクションだよね。でも別にこの話、主題は尾行した先の話なんだから、哲学科の幼稚な学生とか出す必要まったくなかったと思うんだよなあ。そういうわけで「現代日本における実存」という研究テーマで修士論文を書くことになったタマ。尾行ってどうやるんだろう……と本屋に来て探偵術の本とか立ち読み。と、そこで作家さんのサイン会に遭遇。サイン会を手伝っている編集者石坂(長谷川博己)にはなにやら見覚えが……そう、今朝方近所の家で妻子と仲むつまじいところを見せつけていたイケメンではないか(わざわざフラッシュバックする親切設計)。イケメンがサイン会を中座するのを見て、そのままふらふら……とあとをつける。南青山のブルーボトルコーヒーで美人(篠原ゆき子)と待ち合わせをした石坂、二人はそのまま歩いて行くと住宅街でビルの隙間に入り込んで熱烈なキス! そしてそのままおっぱじめる! その前を驚きながら行ったり来たりしているタマ。二人が別れると、徒歩の女のあとをつけて有名な装丁家であることをつきとめたのだった……って南青山で白昼堂々青姦してんのかよ! 装丁家の事務所すぐそこなんだからそっちでやれよ! タマもそこでうろうろしてる時点で怪しすぎるだろ! かくして一発で役満を引き当ててしまったタマなのであった。

というわけですっかり石坂の尾行に夢中になり、同棲中の彼氏(菅田将暉)も放置プレイのタマ。石坂が愛人と逢い引きの約束をしている電話を盗み聞きして恵比寿のホテルに張り込む。フロントから不審の視線を向けられながらも粘って二人の部屋までつきとめる。やがて一戦終えた二人、ホテル近くのフレンチで食事。タマ、二人を追って飛び込むとワインとカルパッチオだけ頼んでひたすらカップルの会話に耳ダンボ。

「……誤解だよ」
「ええそうね、どうせわたしの言うことはみんな誤解なのよね!」
「声が大きいよ……」

なにやら痴話喧嘩の様相。そのうちに女は飛び出してしまう。あとを追う石坂(とタマ)、とそこには石坂の妻(河合青葉)と娘がいた!

 

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