柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『海すずめ』 (「都会で挫折した若者」+「祭り」)×武田梨奈=町おこし大成功!これぞ地方発映画の黄金の方程式 (柳下毅一郎)

公式サイトより

 

海すずめ

監督・脚本・編集 大森研一
撮影 今井哲郎
音楽 中橋孝晃
出演 武田梨奈、小林豊、内藤剛志、岡田奈々、目黒祐樹、宮本真希、佐生雪、野川由美子、赤井英和、吉行和子

 

face 武田梨奈と言えばアクション……というのはもう古い。いまや武田梨奈と言えば地方発町おこし映画の時代である。すっかり地方発映画のミューズとなって日本中縁もゆかりもない土地へと飛ばされて町の活性化活動に従事する日々の武田梨奈嬢だが、今度の舞台は愛媛県宇和島市! しかも舞台は図書館と言うことで、なんとなく有川浩臭までしてきて……

赤松すずめ(武田梨奈)は宇和島市立図書館の「自転車課」で働いている。離島や僻地をはじめ、図書館まで気軽に足を運べない老人を中心に本を貸し出しする自転車サービスというんだが、映画的には

1)武田梨奈の筋力が爆発する
2)風光明媚な宇和島市の隅々までを見せられる
3)行った先の老人との交流場面で話が進む

といろいろメリットのあるアイデアで、これは悪くない。少なくとも武田梨奈を町おこし映画に起用するメリットはちゃんと押さえている。とはいえ、自転車で疾走する爽快感がとらえられているかというとそこはちょっと疑問で、やたらフェリーに乗ってばっかりいるのは大林宣彦の尾道映画あたりを意識しているのだろうか。だけど、くりかえしになるけど、武田梨奈はそういうタイプの女の子じゃないと思うんだよなあ。全力で自転車疾走する場面をクライマックスにしないで、なんのための武田梨奈映画か。

 

 

だが、遅刻ばかりしてやる気もないすずめの評判は図書館内でもあまりよろしくない。実は彼女、少女小説家としてデビューした過去があった。処女作『ゆめのなか』は新人賞を受賞して評価されたものの、第二作が書けなくて東京を離れ、故郷の宇和島に帰ってきたのだった。そんなでもしかでやってる仕事だけに職業意識もあまりなく、今は市役所に勤めている同級生から、伊達家の刺繍について書いた本のことを訊ねられると

「たしかそういう本あったな……たぶん書庫にあるよ!」

 と生返事だけして「あー今忙しいから、またね!」とひたすら放置している。ところがこれ、実は宇和島市的には大きな問題なのであった。おりしも伊達家が宇和島藩に移ってから四百年の記念となる〈宇和島伊達四百年祭り〉が開催されることになり、武者行列でお姫様の打ち掛けを再現するためにどうしてもその資料が必要だったのである。ところがすずめが生返事だけして放置しているもので、どんどん期日がせまってたいへんなことになっていたのだった。とうとう図書館員総出で「あるのかないのかもわからない資料」を探して書庫をひっくりかえす羽目に……

ってまた祭りだよ! これぞ(「都会で挫折した若者」+「祭り」)×武田梨奈=町おこし大成功! の黄金の方程式。それにつけてもいろいろ無理のある話で、そもそもすずめがそんな適当な返事をした理由もわからないのだが、タイトルもわからない本を探して延々と書庫の資料をめくりつづけるとか、宇和島図書館にはまともな司書がおらんのかと言いたい。さらには「東京で挫折して帰ってきた」すずめも本当に適当な女で、そもそも「自分の見た夢を書いただけ」の小説でいきなりデビューすることになると、内定していた大学を蹴って上京。第二作を執筆中に、喫茶店で隣の席に座った編集者が「あの子の小説? 中身なんか期待してないけど、顔がかわいいからね。話題になるから売れるっしょ~」と放言するのを聞いて心折れて帰ってきたというんだが、自分の顔写真を表紙に使われてる時点でアイドル売りされてるって気づけよ! だいたい一作売れただけで大学にも行かずに上京って意味がわかんないんだけど。そりゃあ父親からも「おまえは飽きっぽいからな……」と冷たい目を向けられようというものだ。

 

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