『野生のなまはげ』 「悪い子はいねがー!」 ・・・いやその「野生のなまはげ」ってなんなの!? (柳下毅一郎)
→公式サイトより
『野生のなまはげ』
監督・脚本 新井健市
出演 中島蓮、ほりかわひろき、長宗我部陽子、今谷フトシ、網川凛、金子宏貴、筧十蔵
秋田山中で野生のなまはげが捕獲された! 高度成長期以降の自然破壊によって生息域がせばまったなまはげは姿を見せることもまれになり、絶滅も危惧されていたのだ。トラバサミにかかったなまはげは東京の大学に研究のために移送されることになるが、その途中、鍵を自力で壊して逃げ出す(刃物を持ってるんだから、もう少し厳重に警備すべきだと思うのだが)。逃げ出したなまはげは団地に迷いこみ、母子家庭の少年マモル(中島蓮)と出会う。
「悪い子はいねがー!」
いやその。
「野生のなまはげ」ってなんなの!? って誰もがます最初に思うところだろうけれど、実はそれが最後までなんだかわからないのである。一連の描写を見るかぎりでは「なまはげ」はニホンオオカミかなにかのような絶滅危惧生物であるかのように思われるが、一方でなまはげマニアの教授が子供のころ「なまはげの神域」に行ったことを語ったりして、魑魅妖怪のたぐいのようにも見える。そこらへんがなんとなくふわふわしたまま進んでいくので気になってしょうがない。ちなみになまはげはハムやソーセージやらタンパク質が好物らしく、そこらへんも犬のようなのだが、「悪い子」を食べたりはしないらしい。片手に出刃包丁、片手に手桶を持って「悪い子はいねがー」と子供を追いまわす。マモルがゴミのポイ捨てをしようとすると「悪い子はーー!」と包丁をふりかざすマナーに厳しい学級委員的妖怪なのだ。まあそんな妖怪にリードをつけて散歩させつつ、家では押し入れの中で飼っているマモル。だがなまはげは何かと言うと藁を落とすし、団地はペット飼育禁止だ。いやそういう問題じゃないだろ、とは思うんだけど、お母さん(長宗我部陽子)もペット嫌いだし……yahoo知恵袋で「なまはげのかいかたをおしえてください」と質問出しても「ググレカス」と糞リプが帰ってくるだけ。
そうこうするうちにとうとうお母さんになまはげのことがバレてしまう。
「捨ててきなさい!」
やはり本来の生息地である秋田に返すしかないのか……と電車に乗って北に向かうが、車掌さんが
「坊や、こんな大きなペットを電車に乗せたらだめだよ」
と下ろされてしまう。どうしようと考えあぐねているところに……
だからやっぱりこの世界では「なまはげ」はめずらしい野生動物程度のものなんだよな。しかし誰一人その存在に驚かず、生物学的問題も(知性もあるんだから文明的問題だとも思うが)なかったことになってるなら、そんな妖怪なんで出してくるのか……この映画、実は秋田のご当地映画でもない(ロケは御殿場あたりでやっている)らしく、なまはげを出す意味がさっぱりわからない。何を狙って作ったものかまるで不明なのである。以後もレイドバックした珍獣と少年との交流コメディが続く。
……とそこに声をかけてきた黒づくめの男サトシとそのお兄さん。
「秋田に行くのかい? 連れて行ってあげるよ」
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