柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『古都』 おおうクールジャパン…… 川端康成の小説とはなんの関係もない、いわば勝手続編!二次創作!(柳下毅一郎)

公式サイトより

皆殺し映画通信LIVE 12/30(金)開催!

 

 

古都

監督 Yuki Saito
原作 川端康成
脚本 眞武泰徳、梶本惠美、Yuki Saito
撮影 豊田実
音楽 堤裕介
出演 松雪泰子、橋本愛、成海璃子、蒼れいな、蒼あんな、伊原剛志、奥田瑛二、栗塚旭

 

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「川端康成の不朽の名作『古都』が現代に蘇る。京都・パリ、二つの古都を舞台に繰り広げられる感動の物語」

と書かれていたら、これはまあ誰でも普通に川端康成『古都』の映画化だと思うだろう-- まあ「パリ」のところにちょっとひっかかるにしても。そしてあの話を現代に置き換えて成立するのか?といういくばくかの疑念はあるものの。誰もこんなものは予想すまい。すなわち、これは『古都』の主人公である千恵子とその生き別れの双子である苗子のそれぞれ娘である橋本愛と成海璃子の話なのである。「原作では描かれなかった大人になった母娘たちのその後の姿を描く」つまり川端康成の小説とはなんの関係もないいわば勝手続編! 二次創作! せめて『古都それから』とか『古都after』とか『続古都』とか『古都の逆襲』とか『古都の娘』とか、原作と関係ないことがわかるタイトルにしろよ! そんでもってこれを監督するのがYuki Saitoという横文字名前の新人である。

1979年、千葉県生まれ。高校卒業後に渡米し、ハリウッドで8年間映画制作を学ぶ。2006年に帰国後は、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『バベル』他、名匠の撮影現場に参加。2015年、短編映画『ゴッサム ジャンブル パフェ』でショートショートフィルムフェスティバル&アジア史上初となる4度目の「観客賞」を受賞後、世界各国20以上の映画祭で上映。また、農林水産省とコラボし日本食文化をテーマに制作された短編映画『しゃぶしゃぶスピリット』は、世界各国40以上の映画祭で上映され、アメリカの The Indie FEST Film Awardsにて優秀賞を受賞するなど活躍を世界に広げている。2012年に被災地のペット達の救援活動をドキュメントしたCM「インスタントペットハウス」がカンヌ国際広告祭「Direct 部門」でシルバーとブロンズ、「Design 部門」でブロンズを受賞。2013年サンシャイン水族館「ペンギンナビ」がカンヌ国際広告祭「Mobile部門」でシルバーとブロンズを受賞、2014年に「Design 部門」でゴールドを受賞した。ドラマでは「ロボサン」(14/TX0)で第68回日本映画テレビ技術協会 VFX 部門映像技術賞を受賞。2016年4月クールに放送された「昼のセント酒」(TX)が話題を呼ぶ。

というわけでアメリカで映画を学んできたCMディレクター、まごうことなきクールジャパン案件である。「しゃぶしゃぶスピリット」全開で、外国人が好きそうなエキゾチックジャパンをてんこ盛り、京都、古寺、書道、茶の湯、着物、日本舞踊とげっぷが出そうなくらい盛り込まれ、美しいイメージ・ショットでもともとない話はさらに寸断される。まあモントリオール国際映画祭で賞でももらってくださいやー! 解散! でもいいんだけど、一応橋本愛と成海璃子という二大若手シネフィル女優の記念すべき初共演作でもあるし、つーかこの二人、あんだけいい映画見てるのに、それがいっこうに出演企画の選択に活かされないのはいかがなものか。映画はただの教養じゃないよ! というところで……

 

 

時は現代。呉服屋の娘(実は拾い子)の佐田千恵子(松雪泰子)は呉服問屋の長男竜助を入り婿に迎えて家を継いだ。もっとも商売は左前で、外人向けの京都の町屋見学ツアーなんかをやってほそぼそと稼いでいる始末。一人娘のマイ(橋本愛)はそろそろ大学卒業で、呉服店とは長年の取り引きがある室町商事の入社試験を受けている。「どうせコネ入社でしょ」と同級生に言われてしぶい顔……

これ現代の話なのである。ということは千恵子は四十代。川端が書いたあれこれは九十年代、せいぜいがんばって八十年代の出来事だったということになる。いくら何でもそれは時代錯誤すぎるんではないでしょうか。えー、原作をご存じないかたのために簡単に説明しておきますと、千恵子は呉服問屋の前に捨てられていたが子供のない両親に慈しまれて美しく育つ。大きくなったところで北山杉の加工をして貧しい暮らしの生き別れの姉妹である苗子と再会する。で、二人は会うんだけど苗子は身分違いから相手に迷惑をかけまいと身を引くという顛末である。かつて千恵子に頼まれて苗子のために帯を織った西陣織職人の秀男は廃業するとかで、結局千恵子にも苗子にもフラれて不幸の極みである。

北山杉の山で働く苗子(松雪泰子二役)はシングルマザーで娘ユイ(成海璃子)を育てている。「鳶が鷹を生んだ」と言われているユイはパリに留学して絵を学んでいるがスランプ中。絵を学ぶならパリ留学とか、いったいいつの感覚なのかわからないけど監督の強い要望でこうなった模様。それにしても、パリまで行って描いてるのが下宿の窓から見える街角の風景なんだけど、それは行き詰まりを感じるのも無理ないよ……自分が何をしたいのかよくわからないマイは、入社面接でも志望動機すら答えられずさんざんな出来。にもかかわらず届いた合格通知。それを自分より先に母が見ていたことから母親のコネ活動で合格したことを知り、マイは激怒。

皆殺し映画通信LIVE 12/30(金)開催!

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tags: Yuki Saito 伊原剛志 堤裕介 奥田瑛二 川端康成 成海璃子 松雪泰子 栗塚旭 梶本惠美 橋本愛 眞武泰徳 蒼あんな 蒼れいな 豊田実

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