柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『ヴァンパイアナイト』 吸血鬼とは何かとかは考えず、予算の都合だけで考えた温泉ロケ。おまえらの慰安旅行につきあう義理はない!(柳下毅一郎)

公式サイトより

 

ヴァンパイアナイト

監督 山嵜晋平
脚本 赤間つよし
撮影 吉田淳志
出演 柳ゆり菜、上野優華、伊藤陽佑、山村美智、前野朋哉、勇翔

 

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「はるか昔から、人類は生存のための戦いをくりひろげてきた……」というわけで吸血鬼vs人間のアクション・ホラーだという。ひさびさに来ましたよ、「なぜ、作った」と言いたくなるフランケンシュタインの怪物案件。いやこれ本当にわからないんだけど、主演の柳ゆり菜というタレントのアイドル映画というにはあまりに誰よそれって感じだし、じゃあホラー映画を作りたかったのかというと設定があまりにおざなりで監督のホラー愛などかけらもないつくり。この話で敵が吸血鬼である意味ってどこにあるの? 美人姉妹が吸血鬼が住んでる温泉に行くって話なのに入浴シーンすらないと来ては、本当に何を目指してこの映画を作ったのかわからなくなるレベル。入浴なくして温泉なし、それが映画的約束という奴だ! もうちょっと映画に対して真摯に向き合って欲しいと思うのである。ホラーでもないしアクションでもなく、中途半端なお色気すらないと来てはいったい誰が望んでこんなものが作られるのか。よく引き合いに出す全方向的ダメ映画に『お姉チャンバラ』とかがあるが、あっちのほうがゲームの原作があった分まだしもである。ここまで無意味をつきつめると「ひょっとして芸術……?」という気がしてくるくらい。まあ一種の現代アートとも言えるのかもしれないな……

 

 

血まみれで包丁を持った男を追いかける刑事。人止めをする人員が足りなかったらしく、画面の奥の方では平然と人が散歩していたりする。犯人の逃げる方向に先回りして待ち構えているのがパートナーの雪村佐代(柳ゆり菜)。ミニスカの足をふんばるところからカメラがあがっていく紋切り型のセクシー登場シーンである。銃をかまえるが、そこで脳裏にフラッシュバックするのがかつて両親が目の前で何者かに刺し殺された場面。余談ながらこの場面の父親、家を出るときから麦わら帽子に肩から浮き輪という馬鹿丸出しの姿なので、殺されても仕方ないのではないかと思ってしまう。ともかくそのときの経験がトラウマになって、撃鉄を起こしたはいいが引き金が……引き金が……引けない

包丁を持った男はそのまま横を走り抜けていく。

トラウマで引き金が引けない系の話もよく観るのだが、ここまで酷いのもなかなかないね(まあいきなり撃つのか、とか向こうからこっちに向かって走ってくる相手に向けて、後ろから追ってくる同僚が射線に入るのに撃つのか、とかそういう基本的な突っ込みはなしの方向で)。失意の佐代が町を歩いていると「月夜の母」と看板を立てたうさんくさげな占い師がいる。吸い寄せられるように座ると

「犯人確保で大失敗をやらかしたダメ女のおまえさんは、アーチェリーで日本代表候補になるほど出来のいい妹に嫉妬していたので、こないだ妹が失敗したとき(最後の一射で大はずしして敗退してしまった)内心ひそかに喜んでいただろう」

と黙って座るとピタリと当てられ

「わたしが知っている温泉は、身体だけでなく心の傷も癒やしてくれる」と温泉湯治を勧めるのだった。

同居している妹美和(上野優華)と鳥鍋を食べながら旅行の相談をする佐代。この場面、なぜか延々と鳥をくちゃくちゃ咀嚼する口元のアップを切り返すという描写が続き、なにやら異常に不気味に気持ち悪かった。実は作中で唯一、作者の作家性を感じた部分である。だがねえ、フェティシズムなのか生々しいことをしたかったのかわからないが、そういうことは後半のホラーパートでやってくれよ! 別にエロじゃなくて不可解なフェティシズムしかない描写である。

さて話変わって森の中で激しい銃撃戦……に思わせたかったのかもしれないが最初から最後までサバゲーにしか見えないサバゲーやってる男女。この描写が必要以上に長くしつこく、作者がサバゲーを愛していることだけは伝わってくるのだった。ところでこのサバゲー、ここに登場する非モテ男神楽坂(前野朋哉)がモテないということを見せるくらいしか意味のないシーンで、本当にサバゲーやりたかっただけなのかもしれない。銃撃戦ができないからサバゲーやりたがる映画……で、その神楽坂は痴呆の母親を連れて温泉にやってくる。途中、介護のつらさから湖で母親を突き落とそうとする誰も得しない描写があるも、すんでのところで思いとどまる。

 

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tags: 上野優華 伊藤陽佑 前野朋哉 勇翔 吉田淳志 山嵜晋平 山村美智 柳ゆり菜 赤間つよし

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