柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』 東野圭吾のほんわかファンタジー系小説と西田敏行の自己満足系演技とが組み合わさった世にも恐ろしい映画の登場である (柳下毅一郎)

公式サイトより

ナミヤ雑貨店の奇蹟

監督 廣木隆一
原作 東野圭吾
脚本 斉藤ひろし
撮影 鍋島淳裕
音楽 Rayons
主題歌 山下達郎
出演 山田涼介、村上虹郎、寛一郎、成海璃子、門脇麦、林遣都、山下リオ、手塚とおる、PANTA、萩原聖人、小林薫、吉行和子、尾野真千子、西田敏行

文化庁文化芸術振興費補助金

 

face二〇一二年十二月某日、孤児院丸光園出身のチンピラ三人は時越市に住むと女実業家の家を荒らして金品を奪ったあと、廃屋となっていた雑貨店に逃げこむ。ほっと一息つくと、シャッターの郵便受けからぽとん、と手紙が落ちる。それは「魚屋ミュージシャン」と名乗る青年からの人生相談の手紙だった。「昨日、ジョン・レノンが死にました……」え、ジョン・レノンって?とスマホでググる若者たち。一九八〇年十二月八日死去……じゃあこれは過去から来た手紙なのか!?

東野圭吾のほんわかファンタジー系小説と西田敏行の自己満足系演技とが組み合わさった世にも恐ろしい映画の登場である。いやこれホラーでしょ! 西田敏行の怨念が三人のチンピラをとらえ、無間地獄で延々手紙の返事を書かされ、人の人生を思いつきであやつっておいて、西田敏行ただ一人は「いいことしたなあ……」と自己満足して去っていくというお話。いやこれマジでこわいんですけど。

 

 

「魚屋ミュージシャン」(林遣都)は上京してミュージシャンをめざして弾き語りなどしていたが芽が出ないまま、祖父の葬儀で帰ってきた二十二歳。そろそろ夢を諦めて父親の魚屋を継ごうかとも思っている。だがふんぎりがつけらないまま、ナミヤ雑貨店に人生相談をしてみたというわけだ。夜中にナミヤ雑貨店の郵便受けに手紙を入れておくと、翌朝牛乳入れに返事が入っている。それは実は雑貨店の主人西田敏行がやっていたことで、町の人はみんな知っているんだけど知らないふりをしていたわけですね。ところがその手紙がなぜか三十二年の時を超えてチンピラ三人組のところに届いてしまった。チンピラは「あんたいい身分だね! 逃げる先があるんだったらさっさと魚屋に逃げればいいじゃん」などと心無い返事を返し、ムキになった「魚屋ミュージシャン」は翌日「オレだって本気で音楽やってんだよ」と言いかえすものの「まあ三年もやって芽が出ないんだから才能ないね」と返事が……これ、雑貨店の内と外で時間の流れが違っているらしく、外では一晩たっているのに部屋の中では時間はたっておらず、やりとりはサクサク進んでいく。「自分の曲も聞かずに才能ないとか言われんのは納得がいかない。まず曲を聞いてくれ」と手紙に書いた「魚屋ミュージシャン」は郵便受けに手紙をはさんだまま(はさんでいるあいだは内と外の時空間はつながっているからーーなんでそんなことがわかるんだ!)自作の曲をハーモニカで吹く。それを聞いたチンピラたちは驚愕。

「セリの曲だ!」「てことは「魚屋ミュージシャン」がセリの弟を助けた人?」「ヤバイ、音楽を続けさせないと!」と一転して「夢を追うのは大事なことです」みたいな手紙を書いて投函するのだが、実はその晩に父親(小林薫)が倒れて入院してしまい、その父親から「甘えてるんじゃねえ、足跡を残せるまであがいてこい!」と叱咤激励されて音楽に挑戦することを決めるので、彼らの手紙は実はなんの意味もないのである。しかしそう思って安心してたら大間違いで、「セリの歌」の意味がわかるのはこれから八年後の一九八八年。

 

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