柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『紅い襷~富岡製糸場物語~』 来年は明治百五十年、この手の地方映画がどんどん登場すると思われますんで、みなさん覚悟しておいてください!(柳下毅一郎)

 

紅い襷~富岡製糸場物語~

製作総指揮 岩井賢太郎
監督 足立内仁章
作 松井香奈
撮影監督 高間賢治
音楽監督 谷川賢作
出演 水島優、吉本実憂、桐島ココ、木村夏子、ジリ・ヴァンソン、太田緑ロランス、金澤美穂、木村知幸、愛華みれ、佐伯日菜子、磯部勉、高橋ひとみ、豊原功補、西村まさ彦(西村雅彦)、大空眞弓

 

face世界遺産登録三周年記念! 待ってましたという感じで登場した富岡製糸場映画。三周年ぐらいで映画作ってたらこれから来る記念日どうするんだと思うところだけど、実はこの映画ドラマ部分は半分くらいで、残りは富岡製糸場の成り立ちを語る教育テレビ的な情報番組(制作はNHKエンタープライズ)。ドキュメンタリー部分ではなんと必要なのかと言いたくなるフランスロケまでしているのだが、あるいはここだけ再編集して富岡製糸場で来場者に見せるビデオとか作るのかもしれない。それなら元が取れるか……ただスタッフには結構金かかってそうで、いろいろ闇を感じる企画である。

 

 

さて、女工哀史的なイメージがつきまとう富岡製糸場だけど、国家事業としておこなわれた「模範工場」だったし、働いていたのも士族の娘ら教育あるいいとこの娘が多かったり、イメージほど過酷な労働だったわけではないらしい。というか、現代のブラック企業なんかより福利厚生もよっぽどしっかりしてたりして。本作は信州の士族の娘横田(和田)英が残した『富岡日記』に基づくストーリー。原作には意外とキャピキャピした若い娘の姿があって興味深いのだが、これは女工哀史イメージがあるから意外なのであって、今のキャピキャピした女の子がキャピキャピしてると素のままにしか見えないんよ~ なお演技はものすごく力入ってまして、とりわけ映画初主演の水島優はたいそう滑舌に気を遣ってる感じで一語一語はっきりしゃべるのが気になって気になって……

 

「これは日本の近代化の扉を細くしなやかな手で押し開けた少女たちの青春の物語である……!」

というわけで明治六年春、信州・松代藩士の娘横田英(水島優)は富岡市の製糸工場へ向かう。渋沢栄一(豊原功補)の肝いりでフランスの技術協力を得て建てられた官制工場であったが、いまだ外国人への偏見も強く、「生き血を吸われる」などと言われて働き手が集まらない。そこで……と工員を買って出た英、いずれは技術を身につけて地元に工場を建てようという志である。英を姉と慕う河原鶴(吉本実憂)もついてきて、信州組はさっそく工場で働きはじめる。女工たちの憧れは工場長尾高惇忠(西村まさ彦)の娘勇(桐島ココ)だった。彼女が締める凜々しい真っ赤な襷こそ富岡製糸場のエリート一等工女のしるし。いまだ等外として「繭えり場」で繭の選別作業に従事する英たち、一刻も早く糸とり場にうつって絹糸をとりたい。

「みんな、一等工女になりましょうね!」

 

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