柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『維新烈風 天狗判官』これは黒い!ここまで120%地域振興を食い物にする地方映画のブラック案件ははじめてだ。これが産学官連携の地域おこしという奴だよ! (柳下毅一郎)

公式サイトより

 

維新烈風 天狗判官

監督・脚本 公野勉
撮影監督 中野健太
音楽 印南俊太朗
出演 笠原紳司、中村誠治郎、野口真緒、原野正章、鷲尾修斗、黒藤結軌、白河優菜、藤本涼、橋本侑哉、桂小五郎、石井涼太、益満洸輝、丸山伸樹、皇坂明希、工藤孝裕、柴田秀勝

 

face 時は幕末、公武合体のため降嫁することになった皇女和宮(野口真緒)が江戸に向かう。護衛につくのは近藤勇(黒藤結軌)率いる新撰組の猛者、副長土方歳三(鷲尾修斗)と一番隊隊長沖田総司(原野正章)の三人。その前に立ちふさがるのは天皇のお庭番である天狗判官KURAMA(笠原紳司)であった……というところで、ああなるほど鞍馬天狗の現代版のつもりなのかと思うわけで、たとえそれが沖田総司が剣道の胴をつけた上に背中に長刀二本をぶっ刺し、土方歳三が紫色のロングヘア、近藤勇がファンタジーアニメにしか出てこないようなぶっといクレイモアを背負うという(たぶん『ベルセルク』あたりが元ネタなんだろうが)珍妙な格好をしていて、KURAMAがそれに輪をかけてひどくて真っ赤な鏡獅子のようなかつらをかぶってプロテクターを身にまとい、二丁拳銃と山刀のような包丁を二本ふりまわし、蒸気バイクにまたがるという謎のスチームパンクだったとしても、まあ最近のなんちゃって時代劇ならこのくらいヒドいのも……ないとは言えないことも……いや言えないのだが……ぶっちゃけここまでヒドいのはないし、百歩譲って新撰組が和宮の護衛をするという無茶を許したとしても、それで一行が徒歩で京都から江戸まで行くというのは……和宮が歩くのかよおい! いやそれはいくらなんでもないんじゃないかと思うんだが、それだけヒドい上にヒドい描写を重ねたとしても、それは単にバカが作ったゼロ予算のつまらない映画だというだけであって、この映画の本当の恐ろしさは実はそのどこにもないのである。

それはつまりこの映画の「製作・配給 公野研究室」というところだ。

この映画で監督・脚本をつとめている公野勉は文京学院大学の教授。つまりこの映画は大学の研究室が研究製作として作った作品なのである。公野勉は円谷プロダクション、東北新社、GAGA、日活などで映画製作にたずさわった経験を持つプロデューサーで、2010年から文京学院大学経営学部で特任教授として「エンタテイメンツ・ビジネス論」などを教えている。以下、詳しく知りたい人は詳しすぎて学生あたりに書かせてるんじゃないか疑惑までただようwikipedia項目を御覧いただきたい。 さてその公野勉率いる公野研究室、コンテンツ製作の実習として「維新烈風 天狗判官」の企画を創り上げた。キャラ表を含む企画書は2011年の冬コミで売っていたらしい。冒頭で説明した奇天烈なキャラ設定はすべてこれに基づく。公野研究室としてはこの「コンテンツ」を映画なりアニメなり漫画なりに展開していこうという壮大な野望があったわけである。まあならなくても、とりあえず学生たちにロクでもない商売のやりかたを教えることはできる。

そこへあらわれたのが同じく文京学院経営学部教授、本作の企画も担当している馬渡一浩 である。元電通で、企業や自治体のマーケティング戦略を専門にする馬渡一浩は経営学部でブランディング研究を教えている。そう地域のブランディング。そして映画製作。わかるでしょうか? このふたつの研究室が共同研究として悪魔合体、長野県の「地域発元気づくり支援金」の援助を受けてこのコンテンツを実写映画として、木曽郡王滝村の地域振興を目的に作ることになったのである!

 

 

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