柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『曇天に笑う』 タイアップとか劇場用アニメ三部作同時製作が先にあり、それを埋めるために映画を作る利権案件。仏造って魂入れず、昔の人はうまいこと言ったもんだ (柳下毅一郎)

公式サイトより

曇天に笑う

監督 本広克行
原作 唐々煙
脚本 高橋悠也
撮影 神田創
音楽 菅野祐悟
主題歌 サカナクション
出演 福士蒼汰、中山優馬、古川雄輝、桐山漣、大東駿介、小関裕太、永山蓮、東山紀之、関智一、ももいろクローバーZ

 

コミック原作のなんちゃって時代劇である。先だって『維新烈風 天狗判官』があまりにひどいと指摘したのだが、本作も同じく「なんちゃって幕末」の文脈にあるだけに、こちらでもでっかいクレイモアをかついだ剣士とか、髪を白く染めた奴とか茶髪の長髪とかそういう非現実的な「剣士」が登場する。時代劇のアニメ化というべきか。それで面白ければ別にいいんだけど、だいたいの場合ただ単に雑でしょぼいだけだからなあ。

 

 

で、本作のストーリーはというと「明治維新後の滋賀県・大津。300年に一度よみがえり、人間に災いをもたらすという大蛇(オロチ)が復活する年。曇神社を継ぐ曇家(くもうけ)の長男・曇天火、次男・空丸、三男・宙太郎の曇天三兄弟は、大蛇を封じるため立ち上がる」で、これに岩倉具視直属の対大蛇部隊「犲(ヤマイヌ)」とか新政府に弾圧されて大蛇による国家転覆を狙う忍者軍団風魔一族らが絡む……というまあいかにもつまらなそうなお話なのだが、さらに驚いたことにはこれ、なんと大蛇は復活しないのである! 「ヤマイヌ」たちが印を切ってもにょもにょ呪文を唱えると「お呼びでない」と帰っていってしまう。いやーここまでショボい破壊神ははじめてだよ。さすがは今日本映画界でいちばんつまらない映画を作る映画監督の座を堤幸彦と争っている本広克行だけのことはある。なお、本広作品らしく本作は電通、木下工務店らの製作で、つまりはタイアップとか劇場用アニメ三部作同時製作とかそういう器が先にあり、それを埋めるために映画を作るという利権案件である。仏造って魂入れず、昔の人はうまいこと言ったもんだ。

「幕末が終わり、文明開化が幕を開けた。しかし、その裏では新政府に不満を持つ者が溢れかえり、犯罪率は過去最大。日本は混沌の時代を迎えていた」ということで明治初期、お祭りでしょぼく盛り上がっている琵琶湖畔の町、大津を官憲に追われながら走る武士。あ、これが「新政府に不満を持つ者」ですね。逃げる前にひょいとあらわれた男が鉄扇一丁で叩きのめす。これが曇天火(福士蒼汰)である。そのまま連行して放り込んだ先が琵琶湖の孤島にある刑務所。日本のアルカトラズ、名付けて「獄門処」。暴行、拷問なんでもありの極悪刑務所だ。何考えてこんな描写にしたのかわからないけど、普通に考えて、これ「新政府」側が悪人に見えるよね? こんな奴ら成敗してしまえとしか思えません。で、その獄門処の中の独房に風魔一族の首魁風魔小太郎が捕らえられているのであった……ってそんな奴さっさと処刑しちまえよ! どうせ人権なんてない世界なんだし、大蛇復活阻止のためなら超法規的措置もやむなしと岩倉具視(東山紀之)すらが言ってるのに。こういうのは殺せるときに殺しておかないと後々祟るの。そういう誰でもわかる穴をわざわざ放置しておくようなのを下手な脚本というんだよ。そういうわけで放置していたら、そのうちに風魔一族の残党の襲撃があり、獄門処は風魔一族に乗っ取られてしまう。で、そのまま映画の最後まで風魔一族に占拠されたままなんですが、明治政府ってなんかやらなかったんですかねえ。後半の展開を見るかぎり、その気になったら一瞬で奪回できそうだったんですけど。物語上の都合って奴かな?

 

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