柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『50回目のファーストキス』なんと2004年ドリュー・バリモア主演のアメリカ映画のリメイク。そして福田雄一が改変した部分はすべて改悪… (柳下毅一郎)

 

50回目のファーストキス

監督・脚本 福田雄一
オリジナル脚本 ジョージ・ウィング
撮影 工藤哲也、鈴木靖之
音楽 瀬川英史
主題歌 平井堅
挿入歌 山崎まさよし
出演 山田孝之、長澤まさみ、ムロツヨシ、勝矢、太賀、山崎紘菜、大和田伸也、佐藤二朗

 

face よくぞまあこんな映画を作ったものである。いったい誰が作ろうと言い出したのか知らないのだが(実は福田雄一あたりではないかと思っているのだが)、なんと2004年アメリカ映画、アダム・サンドラー&ドリュー・バリモア主演の『50回目のファーストキス』(50 First Dates) のリメイクである。なんでこんなものを……いやぼくも大好きな映画だが、それはあのころのドリュー・バリモアがどんな馬鹿でもオタクでもすくい上げ高めてくれる聖母のごときヒロインだったからで、それがまさか十年もしてから日本でリメイクされることになろうとは。そしてリメイクされたと思ったら「記憶が一日で消えてしまう彼女と、一生に一度の恋をしたーー」みたいな話に要約されてしまうとは。いや、ストーリーとしては間違ってないんだけど、映画のポイントはそこではないんだよなあ。

しかるにこれがアメリカ映画のリメイクであることはあまり宣伝したくないらしく、チラシにはごく小さなフォントでBased on 50 First Dates Written by George Wingと書かれているだけ。アダム・サンドラーもドリュー・バリモアの名前もどこにも出てこないのだった。チラシでは「オリジナル映画も大好きだったので、このお話を頂いたときは勝手にディスティニーを感じました(笑)」と旧作に言及しているのはなんと平井堅ただ一人! 山田孝之よりも長澤まさみよりももちろん福田雄一よりも、ただ一人だけちゃんとリスペクトを知っている男であった。しかし、じゃあその平井堅の歌がキーになるかっていうと……福田雄一がそんな気の利いたことするわけないだろ!

 

 

本作、脚本は驚くほどリメイクもととそっくりである。山田孝之と長澤まさみはたいそう翻訳調のセリフでラブストーリーを進行させる。舞台はハワイなのだが登場人物はほとんど日本人で、セリフはほぼ日本語。山田孝之の役柄は変えられており、天文学者志望なのだが金を稼ぐために日本人専門のツアー会社で働いている(オリジナルのアダム・サンドラーは水族館で水生哺乳類の飼育員をしているが、いつかフィールドワークで南氷洋に行くのが夢)。で、ハワイに来た日本人観光客の女の子を引っかけて、ワンナイトラブを楽しんでいる……という時点ですでに最悪で、ただのプレイボーイじゃなくて、日本人観光客を強烈に見下しているんだよね。妙ちきりんな石像を作って「宇宙人が設置したパワースポットだってことにすればあいつら喜ぶから」とか言いだす始末。相手を日本人に限定したせいで、女性蔑視がさらに悪質になってしまってるのだ(ちなみにオリジナルの同じ場面では、アダム・サンドラーの相手にギャグで男も入っている)。一事が万事この調子で、福田雄一が改変した部分がすべて改悪になっているのだ。

だいたい天文学をやりたくて星がきれいなハワイに来たというのが噴飯もので、星を見ていたいだけで、日本で天文研究者になっても数字を並べたりプログラムを書いたりするだけだからというんだけど、そんなに望遠鏡覗くのが好きなんだったらアマチュアでやってろ

それでいて大発見してゴダード宇宙センターに行くのが夢だというのだが、そんなところで望遠鏡覗いて「きれいだな~」とか言ってる仕事があるとでも思ってるわけ!? すでに破綻してるだろこの時点で。

 

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