柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『明日にかける橋 1989年の想い出』この厭世観あふれるストーリーを町おこし映画として作られてしまった袋井市・磐田市の立場は…… (柳下毅一郎)

公式サイトより

明日にかける橋 1989年の想い出

製作・監督・原作・脚本 太田隆文
撮影 三本木久城
音楽 遠藤浩二
出演 鈴木杏、板尾創路、田中美里、越後はる香、藤田朋子、宝田明

 

 

face 制作:青空映画舎というので笑ってしまったがまごうことなき夕陽映画。『ALWAYS 三丁目の夕日』の流れを汲む夕陽映画が増えるだろうと以前書いたのは、どうも最近あまり未来にいい夢を見られないと美しかった過去を捏造したがる輩が多いような気がするからなのだが、この映画の場合、美化しようにも過去がいいところひとつもなくて、ひたすら見ていて辛くなるだけの世界。この厭世観あふれるストーリーを町おこし映画として作られてしまった袋井市・磐田市の立場は……原作・脚本・監督は反原発映画『朝日のあたる家』の太田隆文! あーそれでなぜかオールドロックネタがあるのか。タイトルももちろんサイモン&ガーファンクルの名曲からのいただきだけど、中身はもちろん何も関係なく、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』オマージュのタイムスリップ夕陽映画である。

 

 

 

さて物語は1989年7月12日にはじまる。「富士山があまり大きく見えないわたしの街」で暮らす高校生みゆき(越後はる香)は父(板尾創路)、母(田中美里)、弟の健太(田崎伶弥)の四人家族。The Whoの大ファンであるみゆきは「数学なんか勉強しても将来の役に立つんですか?」「十年勉強しても英語で“四重人格”って言えないなんて、そんな勉強に意味があるんですか?」と学校に疑問を感じて勉強していないせいで成績が落ちまくっている高校二年生。将来は「ピート・タウンゼントみたいな歌詞を書きたい」監督のオールドロック趣味むき出しなのは置くにしても言うことなすこと幼稚過ぎる女子高生である。みゆきには絵に描いたようなチャラいロッカーの恋人がいて、家出を誘われている。「今夜の最終バスで東京へ行こう……」だがその夜、家を抜け出して行くと、そこに彼の姿はなかった。みゆきを置いて一人旅立ってしまったのだ。とぼとぼ帰ってくると、父親の顔には誰かに殴られたかのような傷がある。あーそういうことなのか……もうどいつもこいつも大っ嫌い! と翌13日、ふてくされ顔で登校するとき、まとわりついてきた弟に

「おまえなんか死んじゃえ!」

 とただのやつあたりをぶつける。するといきなり弟、車に轢かれて死んでしまう! そこからがすごい。息子の死にショックを受けた母親は精神に異常をきたし、ついに入院を余儀なくされる。父は会社をやめて自動車修理工場を起業、不幸から逃げるように仕事に没頭するがバブル崩壊と共に資金繰りが悪化し倒産。アルコールに溺れる穀潰しに。みゆきは高卒で地元企業に就職、そのままアラフォーの独身お局OLとなって両親の介護だけが日課という夢も希望もない日々を送っている。ちなみにバブル崩壊の傷跡は大きく、学級委員だった手塚君の父親も会社が倒産して自殺、国立大学に入学した親友ひろ子の母がやっていたスナックもつぶれた。誰一人幸せになっていない2010年夏、アル中の父親が自殺のようにして死んでしまう。その葬儀を終えた夜、みゆき(ここから鈴木杏)は伝説の橋の前でためいきをつく。そう言えばこの橋を全力で走り抜ければ願い事がかなうという都市伝説があったっけ……というわけで……

というんだが、ここまでで50分くらいある。陰々滅々とバブル崩壊後いかにつらい人生を送ってきたのかが語られるんだが、さすがにここまで何ひとついいことなしだと見てるこっちまで気が重くなってくる。厭世観にとりつかれたところでようやくあまりに安易なタイムスリップとなるのだが、じゃあ過去が良かったともならないんだよね。なんせバブル景気はあと数年で終わるとわかってるわけだし。一緒にタイムスリップしてしまったアイドルオタクの後輩(富田佳輔)がアイドル黄金時代に感激してるとかその程度。しまいに学校に乗りこむと、

 

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tags: 三本木久城 地方発映画 夕陽映画 太田隆文 宝田明 板尾創路 田中美里 町おこし 藤田朋子 越後はる香 遠藤浩二 鈴木杏

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