柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『旅猫リポート』 まちがいなく今年ワーストワンの猫ポルノ映画! 毎度おなじみ難病ものに猫が加わり、さらには原作・脚本に有川浩という万全の布陣 (柳下毅一郎)

公式サイトより

 

旅猫リポート

監督 三木康一郎
原作 有川浩
脚本 有川浩、平松恵美子
撮影 小松高志
音楽 コトリンゴ
出演 福士蒼汰、高畑充希、広瀬アリス、大野拓朗、山本涼介、前野朋哉、中村靖日、戸田菜穂、木村多江、橋本じゅん、笛木優子、竹内結子、沢城みゆき

 

face本年度のナンバーワン猫プロイテーション。猫をこよなく愛する男サトルが愛猫ナナと最後の旅に出るというストーリーで、予告を見るだけで馬鹿でもわかる難病ものである。毎度おなじみ感動ポルノに猫が加わり、さらには原作・脚本にぼくがいちばん嫌っている作家有川浩という万全の布陣、これはもうまちがいなく今年ワーストワンの猫ポルノ映画である!

感動ポルノというのは登場人物がおいおい泣く映画のことである。普通、映画を見ると観客が泣くのだが、この手の映画では登場人物のほうが泣いてみせる。それに加えて猫である。福士蒼汰演じるサトルは無類のネコ好きで、延々と猫なで声で猫とたわむれつづける。この映画、ヒロインが猫なのである! プロットなどなく、あるのはただ猫とのたわむれ。猫は発声する(声:高畑充希)ので、福士蒼汰との掛け合いは気持ち悪いほどぴったりはまりこみ、いっさいの齟齬がない(原作は猫の一人称とのこと)。ただ福士蒼汰を慰撫する空間だけがある。これが猫ポルノである。

 

 

さて、サトル(福士蒼汰)はナナ(高畑充希)を車に載せて帰らぬ旅に出る。五年前、ナナは自由気ままな野良猫で、まだ名前もなく、猫好きのサトルに「おーい、猫!」と呼ばれて猫缶をもらう日々だった。だが、ある晩交通事故に遭遇。瀕死のところをテレパシーで猫の声を聞いたサトルに救われ、飼い猫となる。名前はナナとつけられた。で、そんな二人が会いに行くのが実家の写真館で働いている幸介(山本涼介)である。サトルとは小学生時代の友人である幸介。この旅、実はナナの引き取り手を探す目的なのだが、そこで会うのが律儀に小学校の同級生、高校の同級生……という順番。こうやってサトルの過去が語られていく。うまい思いつき、と思ったのかねえ。一応サトルが難病で死ぬという設定は伏せられているので、友人たちは「サトルが猫を手放すなんてよっぽどのことだろうから理由は聞かないよ!」と理由を伏せたままニコニコしているという奇妙なことに。観客はそこんところ完璧にわかってるわけで、知らぬはサトルの友人ばかりなり。自分が死病であることを告げずに猫を押しつけるっていいかげん不人情だと思ううえに、サトルの妙にニヤニヤした態度が上から目線に見えて不愉快きわまりない。そもそもこのニヤニヤとナナに対する猫なで声はほぼ同一のもので、要するにサトルというのはひたすら上から目線で、猫人問わずに猫可愛がりしかしない人間なのである。この映画のせいですっかり福士蒼汰が嫌いになってしまった。

さて幸介、「猫ひきとったら女房が帰ってくるかもしれないし……」とか言っている。なんでも最近奥さんが流産したのだが、そのさいに義父が心無い一言を発したため実家に帰ってしまったのだという。幸介の父(田中壮太郎)、非常に強権的な暴君で、かつて幸介が捨て猫を拾おうとしたら絶対に飼ってはいけないと強く禁じたことがある。幸介はサトルにそそのかされて家出までするが、父の怒りは増すばかり。二人は学校の屋上まで逃げる。

サトル「幸介くんが猫飼うのを許してくれないと飛び降りるって言ってるよ!」

 

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