柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『かぞくわり』年に一本くらいときどき生まれるハイパー謎映画。誰もが「なんだかわからないけど、すごいものを見たなあ」という思いだけを抱えて家路についた・・・

公式サイトより

かぞくわり

監督・脚本 塩崎祥平
プロデューサー・劇中画製作 弓手研平
撮影 早野嘉伸
音楽 スワベック・コバレフスキ
主題歌 花*花
出演 陽月華、佃井皆美、石井由多加、木下彩音、松村武、竹下景子、小日向文世

 

face スピリチュアル・シティ奈良県発。なんと折口信夫『死者の書』が原作である。川本喜八郎の作った人形も出てくる(川本喜八郎は『死者の書』の人形アニメーション映画を作っている)。まさかの川本リスペクト、志は高い。そう、志は高いのだよ、志は……高く飛びすぎてどこか遠くにたどりついてしまった異形の作品。折口信夫と家族の再生のストーリーを同時にやろうって、どう考えても木に竹を接ぐ類でしょう。年に一本くらいときどき生まれるハイパー謎映画である。

 

 

そこは奈良県葛城市。古刹當麻寺には藤原豊成の娘中将姫が一夜で織り上げたという「當麻曼荼羅」が収められている。一九七八年、堂下夫婦に娘が生まれた。當麻寺の住職に名前をつけてもらうが、「この子は天命をもった子だ。この名前をつけると世にわざわいをもたらすかもしれないが……」

父親(小日向文世)はあわてて「そんな名前つけないでくださいよ!」と懇願するが住職は「もうつけてしまったから」とにべもない。いや、たいがいひどくないかこの住職。「詳しくはこの本を読め」と父に渡したのが折口信夫『死者の書』である。

それから四〇年の時がすぎ、香奈は立派なダメ人間になっていた。定職もなく恋人もおらず夢も希望も将来の目標もない実家ぐらし。父は主夫としてまずい料理を作るだけ。母(竹下景子!)はマルチ商法にはまって怪しげな商品を家中に積み上げている。全員バラバラで会話もない。そこに唐突に妹暁美(佃井皆美)が娘を連れて帰ってくる。プロ野球選手と結婚して順風満帆な暮らしだったを暁美だが、旦那の女遊びが発覚して離婚、出戻りとなったのだった。ゴミの山となっている家を見た暁美は、すべて片付ける!と廃品回収業者を呼んでマルチの商品から家具から一切合切選別せずに捨ててしまう。娘樹月(木下彩音)も一緒になって、香奈が昔描いた絵まで、彼女の過去をすべて捨てるのだ。だが香奈も父親もすっかり心折られているので文句も言わない。唯一騒ぐのは数百万円分のマルチの商品を捨てられてしまった母だけである。香奈は廃品回収業の男の手に骸骨を幻視して戸惑う

実は香奈、子供のころは絵に抜群の才能を発揮する少女であった。ところがいつのまにか上半身裸の男や骸骨に追われる幻視につきまとわれ、白黒のおどろおどろしい絵ばかりを描くようになる。父母は恐れて香奈に絵を描くのを禁じる。幻覚は止まったものの、人生の目標を見失った香奈は無気力人間になってしまったのだった。

そんなゴスな姉をもともと嫌っていた暁美は「樹月をお姉ちゃんの世界に近づけないでよ! いつまでも親に甘えてるんじゃないわよ!」とけだし正論を言ったもんで大喧嘩、ついに香奈は家を飛び出してしまう。行くところがない香奈、昔を思い出して奇岩屯鶴峯に出かける。その下の洞窟で一人壁画を描いていた過去があったのだ。そこにひょいとあらわれたのがイケメンの廃品回収業者セイジ(石井由多加)である。

「ここに一人で来るなんて、相当病んでますなあ」

 余計なことを言うやつだな!

「ここに来れば王子様に会えるってお父さんに言われたの……」
「じゃあ寄ってきます?」

 なんとセイジはかつて香奈が壁画を描いていた洞窟、というか旧日本軍が掘った地下壕の跡地に住んでいるのだった。

 

 

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