柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『広告会社、男子寮のおかずくん[劇場版]』 ひそかに増えつつある「ローカル局ネットの低予算ドラマの劇場版」に、ますます映画の死を思わずにいられない

公式サイトより

 

広告会社、男子寮のおかずくん[劇場版]

監督 三原光尋
脚本 金杉弘子
音楽 MOKU
出演 黒羽麻璃央、崎山つばさ、小林且弥、大山真志、逢沢りな、田中要次

 

 原作はpixiv発のコミックで、それがローカル局ネットでドラマ化したものが好評だったのか映画館に登場。最近この「ローカル局ネットの低予算ドラマの劇場版」がひそかに増えつつあって、ますます映画の死を思わずにいられない。そもそもこれ広告会社の営業マンが主人公、「見てくれた人を幸せにする広告を作るのが夢」という男で、その時点ですでに背筋が総毛立ってくる。まあ世の中にはそういう広告マンもいるのかもしれませんがね(棒)。そんな若くイケメンで前向きな広告マンばかりが暮らしている広告会社の男子寮がある。そこで暮らす理想に生きる営業マン西尾和(黒羽麻璃央)は名前のおかげで周囲から「おかずくん」と呼ばれている。金曜の夜、おかずくんがあだ名どおりに寮で主菜を調理していると、同期の東良啓介(崎山つばさ)、イケメンの先輩北一平(小林且弥)、体育会系の南郷正(大山真志)らがビールやら炊きたての御飯やら持参で部屋に集まり、みんなで楽しいお食事会がはじまる……つまり若手2・5次元系イケメンたちがいちゃつく男子寮映画ということで、その手のものがお好きなお姉さまがた大喜び! ついでに舞台は江ノ島の江ノ電映画だ。とまあここまで女性受けしか考えずに映画を作れば、結果はもうとことんまで薄っぺらいものにならざるを得ないわけで……

 

 

新橋にあるミナト広告社の営業マン西尾はあふれんばかりの広告愛でブラック労働を乗り切る新人だ。困ったときは土下座でクリエイティブに迷惑をかけるのが習い性という典型的体育会系広告マンである。楽しみは金曜の夜の食事会。「おかずくん」は毎回一品大皿料理を作るだけで、それほど料理男子にも見えないのだが……?そういう意味では典型的な「男の料理」かもしれぬ。

そんな西尾くん、大手代理店から奪った江ノ島のグルメPR誌〈お知ラス江ノ島〉のリニューアルを担当することになる。さっそく観光協会を訪れ「とりあえずデザインを一新してビジュアルを……」と提案すると

「登場するお店を新しくしてください。やはり大手さんと長くなっちゃうと、お店も固定化されちゃって、最近では毎号同じ店が載るようになってしまいましたんで。それもあってそちらさんにお願いしたわけですから」

 と「大人の事情」を振られる。適当にデザインだけいじって楽勝!と考えていた西尾は仕方なく地道な店取材からはじめることになる。ここらへんが「おかずくん」の頑張りエピソードとして語られるんだけど、見てると「おまえいつもどんだけ楽な仕事してんだよ」としか思えないのだった。しかもロクに調べるまでもなく、食事会仲間の同僚たちがいつの間にか江ノ電に乗ってやってきて、江ノ島の地で助けてくれるのである。東良くんはさっそく高校の先輩である美香(逢沢りな)の父親(田中要次)がオーナーシェフをつとめるイタリア料理店Un Platto Feliceを紹介してくれる。実際に食べに行き、地産地消で湘南地区の食材を提供するというシェフの哲学に感激した西尾だが、シェフのほうは「広告は出さないことにしてるんだ!」と拒絶の態度。加えて観光協会の会長だかの親戚とかいうイタリア料理店から強烈な売り込みがある。どうしたらいいのか……!?

 

 

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