柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『葬式の名人』 主演はおなじみ前田敦子さん。原案の川端康成は墓の中で悶絶していそうなんだが、それもこれも

公式サイトより

 『葬式の名人

監督 樋口尚文
原案 川端康成
脚本 大野裕之
撮影 中堀正夫
音楽 上野耕路
劇中まんが やまだないと
出演 前田敦子、高良健吾、白洲迅、尾上寛之、中西美帆、奥野瑛太、樋井明日香、桂雀々、中江有里、大島葉子、佐伯日菜子、福本清三、中島貞夫、有馬稲子

 

face 茨木市政七十周年記念事業で川端康成原案の映画を作ったら死体を担いで街を練り歩き茨木高校の学食でお通夜をあげるという……川端康成は墓の中で悶絶していそうなんだが、それもこれも製作および脚本の大野裕之と監督である映画評論家樋口尚文の作家性と茨木高校愛が存分に発揮されてしまったせいで、そもそもここは作家性を発揮すべき場所なのかどうかという議論はなかったのか、なかったんだろうなあ、まあぼくの感想としては特別協賛のPanasonicさんと茨木市民の方々は心が広いなあ、ということである。

 

 

主演はおなじみ前田敦子さん。ぼくはマエアツさんの演技力にはほとんど感心したことがないのだが(演技を頑張っていることにはいつも感心している。努力の結果に得心したことがないというだけである)、今回も同様。しかるに監督はほぼフィックスのミドルショットで、手前で一人だけ演技させるという……まあやってるほうは気持ちいいヤツですね。

渡辺雪子(前田敦子)は工場でラインにつく最底辺の労働をしながら生意気ざかりの息子を一人で育てるシングルマザー。息子は発熱を装って学校をサボり、遊んでいるのだがそんなことにも気づかないままだ。その息子、公園で見知らぬ相手とキャッチボールの最中、逸れたボールを追いかけて道に飛び出すとキー、ガチャンのエド・ウッド方式(オフカメラで音だけして交通事故を表現する)で車に轢かれそうになるが、キャッチボール相手が身を挺して守ってくれる。キャッチボール相手はそのまま死亡。これが誰かと思ったら茨木高校野球部OBで自分の代にはあと一歩で甲子園に行けたのだ、が口癖の豊川(高良健吾)の同級生で当時エースだった吉田(白洲迅)なのだった。死亡の知らせを受けて同級生たちが集まってきて、雪子のところにも連絡が来るのだが、彼女は「もう他人だし、忙しいし……」と葬儀への出席を断ってしまう。しかし一人息子が事故に巻き込まれそうになったのに、その対応なの!? もちろん雪子はすぐに考えを改めて子連れで駆けつける。「あんな冷たい女、来なくていいんだよ! だいたいあの女とつきあいだしてから吉田は不運ばかり……」とぶつぶつ文句を言っている豊川。ここらへんでもう誰にでもわかってしまうんだが、要するに雪子は高校時代から吉田とつきあっており、卒業後すぐに子供を作ったが、その後なんらかの事情で別れ、腕を故障して野球をあきらめた吉田はアメリカに単身わたって絵の勉強をしていたが帰ってきたと思ったら自動車に轢かれて死んだ、ということらしい。それで勘当されたかなんかで、吉田の両親は孫の顔すら見ていない。この葬式ではじめて孫の顔を見られることになって……

 

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