柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『くらやみ祭の小川さん』 舞台は府中。府中愛にあふれる人々が次々に登場し、府中と祭の素晴らしさを訴える。しかしそこは府中。新宿から特急で20分

公式サイトより

皆殺しの天使
第1回『ジョーカー』

くらやみ祭の小川さん

監督・脚本 浅野晋康
撮影監督 高間賢治
音楽 増田太郎
出演 六角精児、高島礼子、佐津川愛美、水野久美、金森啓斗、螢雪次朗、斉藤陽一郎、水木薫、江口のりこ、柄本明

 

さて、地方映画のテンプレ展開、あるいは地方映画成功の方程式として、つとに

(「都会で挫折した若者」+「祭り」)×アラサー女優=町おこし大成功!

 の図式を指摘してきたわけだが、これこそまるっきり公式そのものの映画である。つまり、東京でリストラされた中年サラリーマン小川さん(六角精児)が府中伝統の祭りである「くらやみ祭」の実行委員に選ばれて「この祭をやりとおせば、自分を変えられる気がするんです!」と頑張るという一本なのだ。まあ六角精児が「微妙なアラサー女優」かという問題はあるんだが、テレビで知名度はあれど映画一本を支えきるには程遠い俳優ということで、微妙さにおいては通じるものがあるかもしれない。小川さんは妻(高島礼子)と母(水野久美)、娘(佐津川愛美)、息子(金森啓斗)の五人家族なのだが、家族にはそれぞれ月並みな不幸がふりかかる。で、小川さんが見事変われたとして、その不幸は解消されるのだろうか?

この映画の場合、さらにもうひとつ大きな問題があって、それは舞台が府中だということである。映画の中では府中は誇りある地方中堅都市として描かれ、江口のりこ演じる府中愛あふれる蕎麦屋店員を筆頭に、府中愛にあふれる人々が次々に登場し、府中とくらやみ祭の素晴らしさを訴えるのだが、しかしそこは府中なのだ。新宿から特急で20分なのだ。リストラされた六角精児が再就職に困る……たって別に東京どこでも仕事探せるだろ! なんで地元の職安で悩まなければならないのか。映画が地方映画のテンプレ展開になればなるほど、「でもここ府中だし……」と思うことしきり。そんなわけで、ちっともド田舎ではない府中を舞台にした町おこし映画である。

 

 

中堅電子機器メーカーで真面目に働いてきた小川秀治(六角精児)だが、ある日いきなりリストラされてしまう。自宅の改装もいったん棚上げせざるをえず、無聊をかこつ日々。家には妻と母、離婚して孫娘を連れて同居している美沙(佐津川愛美)、俳優を目指すフリーターの息子秀樹(金森啓斗)が住んでいる。とりあえずは充電……と一ヶ月あまり何もせず、魚屋でパートとして働く妻の稼ぎで暮らしている。

暇にあかせて草野球の見物をしていると監督柴崎(螢雪次朗)に声をかけられ、蕎麦屋で幼馴染でくらやみ祭を手伝っている法子(水木薫)らと飲むことになる。柴崎から「祭の実行委員をやらないか?」と声をかけられるも「いやあ……」と煮え切らない態度、店員(江口のりこ)から

「府中の男なら燃え尽きなさいよ!」

と発破をかけられるも断ってしまう。帰って妻に話すと

「なんでやらないの!?」

と意外な反応。実は埼玉人の妻のほうがくらやみ祭マニアで

「くらやみ祭りには誰でも参加できるわけじゃない。府中で三代続いて、ようやく祭りに参加できる。あなたが府中の男として認められたってことでしょ」

 

 

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