柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『いただきます ここは、発酵の楽園』 有機農法がテーマの食育プロパガンダドキュメンタリー。素晴らしき有機農法ユートピアの扉が今、開かれる…… [無料記事]

公式サイトより

いただきます ここは、発酵の楽園

製作・監督・撮影 オオタヴィン
出演 小雪、吉田俊道、木村秋則、菊池良一、日原瑞枝、小倉ヒラク

 

出演者クレジットに「にんじん、りんご、ほとけのざ」がある映画、これはなかなかに新しい。監督オオタヴィンによる発酵シリーズは『いただきます みそをつくるこどもたち』に続く第二作、「食べたものが、わたしになる」「You are what you eat」という食育プロパガンダドキュメンタリーである。ナレーションに小雪、エンディングテーマを歌うのは坂本美雨(作詞作曲宮沢賢治!)という、こちらの汚れた心がすべて菌類に食われてしまうような意識の高い布陣。てっきりこれも納豆菌映画なのかと思いきや、本作のテーマは有機農法。細菌の作用で堆肥をこしらえ、豊かにした土壌で育てた野菜を食べればみな健康! そんな素晴らしき有機農法ユートピアの扉が今、開かれる……

 

 

食育を取り入れ、自前で有機栽培の畑を持ち、園児がそこで育て収穫した野菜を食べる保育園が紹介される。農業にいそしむ子どもたちの姿を(ときにスローモーションで)いきいきと描きだすのが、たぶんこの映画のもっとも見せたい映像なのだろう。「野草給食」(もちろんご飯は玄米)を本当に子供は食べたかったのかいささか不安にはなるものの、子供の笑顔が(スローモーションで)映ってる分には誰も困るまい。話が不穏になってくるのは有機農法のカリスマ、オーガニック爺たちが出てきてからである。

まずは長崎、「菌ちゃんファーム」の吉田俊道老人。野菜を材料に微生物によって発酵させた堆肥を使う吉田老人。「野菜にいいものは人間にもいい」と堆肥をぱくぱく食ってみせるのにはさすがにたまげた。吉田氏は「有機栽培の畑にはカラスもイノシシも来ない」と言い、野菜が直射日光や害虫を避けるために作る「ファイトケミカル」が「第七の栄養素」として注目されているのだと主張する。このへん、いろいろ怪しいようですが。

吉田老人の菌ちゃん農法を取り入れた佐世保市のマミー保育園では和食の給食を提供する。「オーガニック野菜×和食=腸活」こそ食育の方程式である。園児たちが育てた野菜を漬物にし、両親にプレゼントする「たくあん卒園式」にはさすがに……

だが、映画のトーンががらっと変わるのは青森、奇跡のリンゴ木村秋則の登場場面だ。不可能と言われた林檎の無農薬栽培に成功した木村氏の人生については伝記映画『奇跡のリンゴ』、ドキュメンタリー『いのちの林檎』で語られている。今回、木村秋則氏の楽園ということであるいはUFOも登場するかとも思われたのだが、残念ながらそっちの話にはならない。だが、インタビューだけで十分に恐ろしい。ここはなぜかモノクロで、木村氏が無農薬栽培を試みた結果、何年ものあいだ虫にやられてまったくリンゴが収穫できない年が続いたことをとつとつと語っていく。ついに十年目、さしもの木村氏も心折れ、「死んでお詫びをしよう」と森に入っていくのだが、その話をするとき木村氏は手にロープを握っている! もちろんそこで土を舐めた木村氏は土の秘密に気づき、微生物によって土を豊かにする無農薬農法を編みだすのである……わけだが、モノクロ画面での語りがホラー映画にしか見えなくて困るのである。なお、通常栽培のリンゴはすぐに傷むのに対し、“奇跡のリンゴ”は四ヶ月置いておいても腐らないという研究結果が発表されていたりして、奇跡の霊験いまだ衰えずである。

 

tags: オオタヴィン 吉田俊道 小倉ヒラク 小雪 日原瑞枝 木村秋則 菊池良一

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック