柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『虚空門GATE』「ある」か「ない」かなどではない。ここにはまぎれもなく現実が露呈し、そして何かの光が写っている。これこそがまさにUFO体験なのだ

公式サイトより

『皆殺し映画通信』新年会のお知らせ

 

 

虚空門GATE

監督、編集 小路谷秀樹
出演 庄司哲郎、林泰子、竹本良、巨椋修、大森敏範、宇宙大使くん、秋山眞人、三上丈晴、飛鳥昭雄

 

 UFOとUFO体験についてのもっとも優れた本のひとつである稲生平太郎の『何かが空を飛んでいる』は、UFO体験の複雑さについて語っている。「円盤は一筋縄ではいかない」と稲生は言う。あるとかないとかそんな単純な話ではない。UFO体験は現実とフィクションが混ざり合うところにあるのだ。

 

奇想天外なドキュメンタリー映画『虚空門GATE』で、監督小路谷秀樹がその迷宮に踏み入ることになったのは、youtubeで見たという「月面異星人遺体動画」がきっかけだった。「月面のモナリザ」とも言われるこの映像は、アポロ20号が月面で発見した宇宙船の中にあった異星人の遺体を撮影したものという触れ込みだった。言うまでもなく、アポロ計画は17号で終了している。その映像に興味を惹かれた小路谷は、秋山眞人、飛鳥昭雄ら名だたるUFO研究者、オカルト研究者たちにその真偽を訊ねてゆく。回答はさまざまだが、いずれも一筋縄では行かない。このビデオがフェイク(=捏造品)かどうかと訊ねても、「もしフェイクだとしたら、なぜわざわざフェイクを作り、流出させたのかという問題がある。それは本物の存在をほのめかすためではないか」といった回答が帰ってくるのである。インフォメーションとディスインフォメーションのあいだで議論は永遠に続く。

 

 

UFOの奥深さに惹かれた小路谷は、さまざまな目撃譚を追いかけ、ビリーバーの証言を集めてゆく。そうやって曲がりくねったUFO道を歩んでいくうちに、運命のようにあらわれるのが庄司哲郎なのである。庄司はすでにベテランの域に入ろうとしている映画俳優である。きうちかずひろ監督版の『Be-Bop Highschool』(1994)で主役を演じるほか、『棒の哀しみ』や『修羅がゆく5 広島代理戦争』(1997)などに出演、低予算ヤクザ映画とVシネマのはざまでキャリアを続けてきた。その庄司、実は何度もUFOを目撃しており、「UFOなんかいつでも呼べる」と豪語するコンタクティーであるらしい。UFO写真もたびたび撮影に成功している。なんとしてもUFOを撮影したいと考えている小路谷は、庄司を取り巻く人々とともにUFO探求を進めることになる。

この映画が何よりも変なのはこの構成であって、つまり小路谷監督の興味の赴くままに出会ったものを順繰りに撮影していくので、話の焦点がどんどんずれていくのである。編集も監督本人が手掛けているので、ずれた軌道を修正するすべがない。だが、このどこまでも逸脱してゆく軌跡こそがUFO体験のスパイラルなのである。まるでUFOの航跡のように、その旅路は予想外の道筋をたどり、思いがけない人物が登場する。庄司のGFであるバレリーナ、大家である喫茶店のマスター……小路谷は庄司とともに出かけたツアーで、ついにUFOを目撃する。だが、このとき、なぜかカメラは撮影されておらず、UFOの姿はカメラに写っていない!(黒い画面に興奮して騒ぐ小路谷たちの声だけが流れる)これまたUFO体験に典型的なこととして、なぜかこの決定的瞬間にはカメラが回っていないのである。

それを見た庄司は「オレがUFOを呼んでやるからそれを撮れ!」と小路谷に言う。一緒にツアーに出かける日程を決めたが、その日に庄司はあらわれなかった。恋人にも大家にも連絡しないまま、庄司は忽然と姿を消してしまったのだ。あわてて家に出かけてみたが、携帯や財布までもが机の上に置きっぱなし。彼はなぜ失踪してしまったのか? UFOと関係あるのか、MIBの仕業だろうか? はたして……

 

このあと二転三転する驚天動地の展開が待っているのだが、そこはネタバレなので書かない。小路谷は見事にUFOの罠にふりまわされまくり、観客も彼と同じようにあっちこっちへふりまされる。是非何も知らないままにみて、大いに驚愕し、あるいは大笑してもらえばいい。馬鹿馬鹿しい、と思う人も多いだろう。だが、これこそがまさにUFO体験なのだ。「ある」か「ない」かなどではない。ここにはまぎれもなく現実が露呈し、そして何かの光が写っている。小路谷はもちろんこんな映画を作るつもりはなかったろう。だが、UFOを見るつもりだった彼のところに訪れたUFOは、まったく思ってもみないかたちをしていたのだ。それがUFO体験の恐ろしさである。UFOとUFO体験はイコールではない。UFOはUFO体験の一部だが、そのすべてではないのだ。稲生は語る。「何かが空を飛んでいる」と稲生は言う。それが宇宙人の乗り物なのか、精神が見せる幻影なのか、そのどちらでもある何かなのか。「精神と物質、精神と肉体の境界が曖昧となるのが円盤の世界であり、ふたつの領域のあわいを円盤は飛んでいる」その意味で、『虚空門GATE』は正しくそれを見ることについての映画なのである。

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