柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『糸』 平成元年に生まれた二人の三十三年間を描く #ありがとう平成 映画。予定調和のストーリーを真面目な瀬々敬久監督がクソ真面目に撮るとどうなるか

公式サイトより

監督 瀬々敬久
原案 平野隆
脚本 林民夫
音楽 亀田誠治
主題歌 中島みゆき
出演 菅田将暉、小松菜奈、山本美月、高杉真宙、馬場ふみか、倍賞美津子、永島敏行、竹原ピストル、二階堂ふみ、松重豊、田中美佐子、山口紗弥加、成田凌、斎藤工、榮倉奈々、石崎ひゅーい、片寄涼太

平成元年1月8日、高橋漣(菅田将暉)は北海道に生まれた。というわけでこの物語は漣と園田葵(小松菜奈)、平成元年に生まれた二人の三十三年間を描く #ありがとう平成 映画。弥生、三月 -君を愛した30年と同じジャンルである。コロナ禍のせいで色々狂ってしまったが、どうやらこれが本来の2020年邦画トレンドになるはずだったものらしい。ただ『弥生、三月』みたいに平成元年に出会うことにしてしまうと、二人が結ばれるときには五十近いなんてことになっちゃうわけで、今回は平成前半のトピックはすっ飛ばして後半のみにフォーカスを当てることになった。

もうひとつのテーマは『糸』。主題歌でもある中島みゆきの曲である。最近流行りの名曲の映画化という奴。まあ中島みゆきなら誰もが知ってるし、「たーてのいとはわーたーしー、よーこのいとはあなたー」だから平成を彩るメロドラマのテーマソングとしてもぴったりじゃないか。ただ、こういう設定でこの話にしたとたん、問題が生じる。それはつまり、このすれちがいメロドラマが解決するのは平成31年、そこで二人が巡りあって結ばれるのであれば、それまでのストーリーはすべて単なる引き伸ばしでしかない、ということである。榮倉奈々も噛ませ犬としてはよく頑張っていたとはいえ、彼女が難病になるのは登場したときからすでに明らかなのである。そんな予定調和のストーリーを、真面目な瀬々敬久監督がクソ真面目に撮るとどうなるかという……そういう意味では一種のプログラムピクチャーとしての#ありがとう平成映画の中で、頑張ってる人もいたしいい場面もあった、というところで落ち着きそう……

 

 

さて、平成13年(2001年)、中学1年生の漣と竹原は、美瑛町の花火大会に出かける。花火大会には間に合わなかったものの、そこに遊びに来ていた同学年の少女二人組、葵と弓と知りあう。すぐに仲良くなった漣と葵、漣のサッカー試合に葵が手作り弁当持参で応援に行くアツアツぶりに、竹原と弓も顔を見あわせる。だがある日、「家に帰りたくない」とぽつんともらした翌日、葵の一家は夜逃げのようにいなくなる。弓から葵は育児放棄されており、近所のおばさん(倍賞美津子)のところで時折ご飯を食べさせてもらっていたことを知る。

平成20年(2008年)、漣は竹原(成田凌)から弓(馬場ふみか)と結婚すると伝えられる。平成21年(2009年)、結婚式に葵も来る(たまたま道でばったり会ったらしい)と聞かされて驚愕し、昔のことを思い出す漣。実は平成13年、あのあと漣は札幌に引っ越した葵に会いに行っていたのだった。

これ、物語の順番で時間が飛ぶたびに律儀に年号が表示され、説明していくとおりに話が進んでいくんだが、律儀というかバカ正直というか……『弥生、三月』はそこを見せなかったせいで逆にピーター・グリーナウェイみたいになっちゃったわけだが、これはこれでどうにも説明過多で余白がまったくない感じ。人の出入りとかいちいち説明してゆくんで映画が長くなる(この文章も長くなる!)のだが、映画ってそういうものじゃないんじゃないかな……
ともかく平成13年、母子家庭の葵が、母の恋人にDVを受けていると知った漣。「あと二年我慢すればいいから」とすっかり暴力に心折れて諦めてしまっている葵を救おうと手を引いて逃げ、別荘に不法侵入して夜を明かす。ラジオから流れてくる中島みゆき「糸」に聞き入る二人、函館から青森に逃げようと約束する。だが翌朝、二人は警察に保護され、上辺だけ取り繕う葵の母親によって引き裂かれてしまう。

 

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