柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『アイドルスナイパー THE MOVIE』 歌も踊りも冴えない「アイドル」たちがへっぴり腰で銃をかまえ、刀をふりまわし、CGの銃弾がひょろひょろ飛んでゆくのを見たい人がいるというのか?

公式サイトより

アイドルスナイパー THE MOVIE

監督・原作 稲葉司
脚本 高橋祐太
製作総指揮 前田けゑ
ストーリーデザイン 稲葉司、前田けゑ
撮影監督 曽根剛
音楽 堀田陽一
出演 遠藤三貴、瀬野ユリエ、前田けゑ、福山理子、稲森美優、鳥住奈央、矢吹穂乃香、西川路瑠璃華、月森楓、坂本三成、範田紗々、若林美保、星乃まおり、トニー大木、ひとみちゃん、長谷川悟

「表の顔は人気アイドル、裏の顔は凄腕のスナイパー」という歌って踊って銃を撃つ「アイドル」が十把一絡げに登場するアイドル・アクション。まいどまいどくりかえしている文句だが、これいったい誰のために作ってるのか? 名前もまったく知らず(おそらく出演者の中でもっとも一般的知名度が高いのは熟女水着アイドル「バナクサ」の一員を演じる範田紗々だと思われる)、歌も踊りも冴えない「アイドル」たちがへっぴり腰で銃をかまえ、ポン刀をふりまわし、CGの銃弾がひょろひょろ飛んでゆくのを見たい人がどれだけいるというのか? ほぼ商業的に成立しているとは思えないのだが、クレジットを見ると出演者一人ひとりに「XX様ご支援」として一名から数名の名前が並んでいたので、あるいはスポンサーをもってきた人が出演させてもらえるシステムなのかもしれない。それであんなにわけのわからないキャラクターが出てくるのか。しかしそれにしたって三秒で殺される「けん玉スナイパー」として出演させてもらって嬉しいものなのか?

この謎の映画のキーマンとなるのが闇組織シガラの幹部で、顔を半分隠すマスクをかぶっている中二病の権化みたいな風間リョウを演じている前田けゑ。「血のつながらない相手から遺産十五億円をもらった芸人」として有名なカスタネットパフォーマーだそうである。世の中にはいろんな人がいる。現在はK-Network Family代表取締役として本作を製作しつつ、上映ではイベントの司会をつとめて盛り上げ役にも余念がない。十五億円もっている人が、こんなとうてい儲かるとも思えない映画を作っているんだから、これは完全に愛の仕事、純粋なる映画愛のたまものと言わざるを得まい。

 

 

で、ストーリーのほうだが特になし! いや本当にないのである。一応拳銃をふりまわすアイドル集団ディスティニーと、殺し屋組織シガラが送りこむスナイパーたちとの戦いを描いてはいるのだが、そもそもこの二つの組織が何を目的としてなぜ殺し合いをしているのか、組織の規模も資金源もそもそもこれがこの世界のできごとなのかパラレルワールドのSFなのかもまったく何もわからない。なんのためにやっているのかさっぱりわからないまま、下着姿で若い女の子が銃を撃ちあう(なぜなら「五感が研ぎ澄まされるから、撃つときには水着になる」のである)姿だけが延々と続く。映画の退廃の極地というべきか。

映画がはじまるといきなり登場人物が顔つきで紹介されるのだが、この時点で十人以上の名前を次々並べられても覚えきれない! 今日はディスティニーのリーダー、香坂瑠璃(稲森美優)の卒業公演。だというのにダラダラと無能マネージャー(河上肇)をからかって遊んでいるメンバーたち。公演がはじまると瑠璃はいきなりステージ上でヤンキーキャラの紅レイ(遠藤三貴)を新リーダーに指名する。驚くレイと不満顔の他のメンバーたち。なぜか公安委員長が公演を見たがっているのだが、場内にスナイパーが潜んでいる情報がある、と廊下で待たされている。だからなんで!

 

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