柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『リトル・サブカル・ウォーズ ヴィレヴァン!の逆襲』 イオンモールの中を、お友達と走りまわって、おっぱいボールやらまずいドリンクやらで遊ぶのが、守りたい「サブカル」なのか?

公式サイトより

リトル・サブカル・ウォーズ ヴィレヴァン!の逆襲

監督 後藤庸介
脚本 いながききよたか
音楽 出羽良彰
出演 岡山天音、森川葵、最上もが、本多力、柏木ひなた、水橋研二、落合福嗣、萩原聖人、安達祐実、平田満、滝藤賢一、天野ひろゆき、小林豊、大場美奈

 

♪ちゃーん!ちゃちゃらららというおなじみのファンファーレ(風)の音楽に合わせて、宇宙空間に例の文字で

Episode III
THE VILLAGE VANGUARD STRIKES BACK

『サブカルチャー』……、略してサブカルとは、社会を支配する主要な文化『メインカルチャー』に対して生まれた少数派の文化であった。

支配階級が好む高等な文化に対して、中産階級、またはマイノリティが生み出す抵抗の文化として存在したサブカルは、いつしか、マンガやアニメ、アイドルなどの新興文化融合し、市民権を得るまでになった。

そんな『サブカル』が消滅の危機に瀕する事態が勃発した。ヴィレヴァンの店員達は『サブカル』を救うために立ち上がった……。

 

うーん、いやここで「サブカル」とは何かという大演説をはじめてしまうとみんな帰ってしまうのでそれはやめておくが、そもそも「支配階級が好む高等な文化」ってなんだよ!「支配文化」の間違いか? カウンターカルチャーとポップカルチャーとサブカルチャーとがごっちゃになった出鱈目な説明なのだが、それはもういい。ともかくそういうものが「サブカル」であって、それを守るのが「ヴィレヴァン」つまり名古屋発の雑貨も置いてるおもろい本屋としておなじみVillage Vanguardなのである。そうでしょうそうでしょう。そうなんだろうけど、どうしても一言、二言言っておきたいことがありまして。

そもそも堂々とスターウォーズネタではじまるくらいで、この中で語られるものどれもこれも大メジャーな漫画や映画なのであって、どれもこれも大資本による商業主義の産物でしかないものばかり。ミニカーや「王様のアイデア」みたいなおもしろ雑貨がそんなに必要なのか? いやこれを言うと文化の価値に上下をつけると非難されるのかもしれないが、それでもあえていう。おっぱいボールやらまずいドリンクやらがヴィレヴァンの守りたい「サブカル」なのか?

というかそもそもなんでヴィレヴァンが、イオンモールに入っている雑貨屋のごときが、そんなものの守護者になっているのか。サブカルが規制されてしまった世界で、主人公は「つげ義春がない! 丸尾末広がない!」とショックを受ける。タコシェや青林工藝舎がそれを言うならともかく、しょせん取り次ぎ通して本入荷しているチェーン雑貨屋だよ? なんでそんなものが文化の担い手みたいなことになっているのか。まあこれ話は図書館戦争とよく似た思想の自由にまつわる寓話だったりするわけだが、あちらだって仮にも図書館だったわけでね、イオンモールの中で走りまわるくらいのことしかできない連中が何を言ってるのかと。これが模索舎だったら火炎瓶飛ぶよ!(嘘)

 

 

舞台:日本のどこかのイオンモールに入ってるヴィレッジヴァンガード。アルバイトの杉下(岡山天音)は文学少女小松(森川葵)、BLマニアの今中(最上もが)、おもしろ雑貨好きの山本(本多力)、元アイドルの不思議ちゃん岩瀬(柏木ひなた)、めったに出社しない店長川上(滝藤賢一)、店に住み着いている謎の店員権藤(平田満)ら変人ばかりの職場で、「ヴィレッジらしさ」を追求しながら仲間たちと楽しく働いているのだった……ってなんだこの役名!と思ったがこれ名古屋のメーテレ製作ドラマの劇場版だったんですね。ヴィレッジ・ヴァンガード自体名古屋発の雑貨屋だし、名古屋ご当地映画アピールなのか。それにしてもこの職場、模様替えと言って徹夜で働かせたり、山本が頭っから馬鹿にしている杉下にガンガン蹴りをいれたりするブラックな職場で、全然楽しそうじゃない! とりわけ山本の蹴り、ギャグのつもりなのかもしれないが何もおもしろくなくて不快なだけなんですが。なんだろうねこれ。

 

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tags: いながききよたか 出羽良彰 地方映画 大場美奈 天野ひろゆき 安達祐実 小林豊 岡山天音 平田満 後藤庸介 最上もが 本多力 柏木ひなた 森川葵 水橋研二 滝藤賢一 萩原聖人 落合福嗣

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