柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『めぐみへの誓い』 思想のおかげで映画がどう歪められているか。北朝鮮を純粋悪にするために、もっと複雑なドラマと深い愛をスポイルしてしまったのだとすれば、それは映画的には残念なことだ

公式サイトより

めぐみへの誓い

監督・原作・脚本 野伏翔
撮影 神野誉晃
音楽 許平和、許真弓
出演 菜月、原田大二郎、石村とも子、大鶴義丹、小松政夫、仁支川峰子、坂上梨々愛、安座間美優、小林麗菜

 

北朝鮮による日本人拉致により、引き裂かれた横田めぐみさんとその両親、横田滋・早紀江夫妻の思いを描こうとクラウドファンディングにより三千万円以上の金額を集めて製作にこぎつけた本作。クラウドファンディングのページを見ると、はすみとしこ、西村幸祐をはじめあまりお近づきになりたくない面々が並んでいらっしゃる。原案は野伏による同名舞台。野伏は過去に靖国神社野外特別舞台で『同期の桜』や『俺は、君のためにこそ死ににいく』などの舞台を上演している。まあどんな思想の持ち主が映画を作るのも勝手なのだが、問題はその思想のおかげで映画がどう歪められているかである。この映画の場合、とりわけ気になるのは横田滋氏の人物像で、というのも、これを見るとどうしても横田滋氏はそんな祈るだけの善人じゃないだろ!と言いたくなってしまうのだ。こんな平面的な人物造形になってしまったのは作り手の政治思想に合わせたせいじゃないのか。

 

 

この映画、拉致被害者として出てくるのはもっぱら横田めぐみさんと田口八重子さんの二人である。蓮池さんもジェンキンスさんも出てこない。横田夫妻は2002年、小泉首相の電撃訪朝の結果、横田めぐみさんの拉致と死亡を告げられる。愕然とした夫妻だが、あまりに雑な情報開示に「こんな話は信じられない! めぐみはまだ生きているに違いない!」と早紀江夫人が希望をいだいたことから奪還のための運動がはじまる。だが孤立無援の彼らを助けてくれる人はどこにもおらず、横田夫妻と「救う会」は街頭に立って署名と街宣活動をつづける……のだが、実は映画の中で日本で起きることはほぼこれだけなのである。

 

(残り 1864文字/全文: 2702文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

tags: 仁支川峰子 原田大二郎 坂上梨々愛 大鶴義丹 安座間美優 小松政夫 小林麗菜 石村とも子 神野誉晃 菜月 許平和 許真弓 野伏翔

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ