柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『太陽は動かない』 こんな映画に我々の税金が補助金として使われてるのかと思うとほんと涙ちょちょぎれ。これが日本映画の現在だ

 

公式サイトより

太陽は動かない

監督 羽住英一郎
原作 吉田修一
脚本 林民夫
撮影 江崎朋生
音楽 菅野祐悟
主題歌 King Gnu
出演 藤原竜也、竹内涼真、ハン・ヒョジュ、ピョン・ヨハン、市原隼人、南沙良、日向亘、加藤清史郎、横田栄司、翁華栄、八木アリサ、勝野洋、宮崎美子、鶴見辰吾、佐藤浩市

文化庁文化芸術振興費補助金

 

24時間ごとに秘密組織:AN通信へ定期連絡しなければ、爆死する。

爆弾を埋め込まれた、冷静沈着な鷹野(藤原竜也)と相棒の田岡(竹内涼真)。精鋭エージェントコンビに課せられた、過去最大にして最悪のミッション。

キーワードは、全人類の未来を決める次世代エネルギー。

その極秘情報をめぐり、世界各国のエージェントたちが争奪に動き出し、命がけの頭脳戦が始まる!

 

 

そもそもですよ、心臓に爆弾を埋め込まれて定時連絡を怠っただけで爆死するとか、普通死刑囚とか犯罪者を無理やり働かせるためにやってるんだろうと思うじゃないですか。そうでもないのにそんなもの埋め込まれる意味なくない? しかるに本作ではまさかの志願制で、18歳になったらテストを受けて見事合格すればエージェントになれるのだという。いったいどんな特典があればそんな仕事に志願するのか、目につく女はやり放題、何をやってもお咎めなし……みたいな特権でもあるのかと思いきや、別にそんなことは特になく、普通に死の恐怖に怯えながら潜入工作をしてる。そもそもエージェントの訓練育成費用を考えれば「使い捨て」ほど割にあわないことはない(神風特攻隊の最大の問題として指摘されたのはその点ではなかったか)。加えて緊張してれば失敗もあるだろうし組織への忠誠心も失せるしなんのメリットもない。あとあるとしたらマゾヒストの性癖くらいじゃないのか。

で、そんな馬鹿げたことまでやってエージェントをつなぎとめてるスパイ組織「AN通信」、何をやってるのかと思ったら「企業の秘密を探って、他の企業に高値で売りつける」つまりフリーランスの産業スパイ組織! いったいどこの企業がそんな金を払えるっていうんだよ! グーグルの私兵って言われたほうがまだ信憑性あるよ! とまあ一から百まで突っ込みどころしかない設定で、逆に芥川賞作家吉田修一がどんなつもりでこれ書いたのか気になってくるレベル。ホリプロ六十周年でブルガリアで一ヶ月間の長期海外ロケを敢行して「日本映画を越えるスケール」を演出してみたつもりなのかもしれないが、こんなリアリティのかけらもない「映画ごっこ」をやればやるほど世界レベルから遠ざかっていくんだっての。こんな映画に我々の税金が補助金として使われてるのかと思うとほんと涙ちょちょぎれますわ。そういうわけでもうレビュウ終わりでいいっすか? あ、まだストーリーとか知りたい? しょうがないんで、ではざっくり。

 

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