柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『未来へのかたち』 砥部焼で東京オリンピックの聖火台を作ろうという一大プロジェクトにまつわる家族の再生のストーリー・・・という、まさかのオリンピック便乗地方映画

公式サイトより

未来へのかたち

監督・脚本・原案・編集 大森研一
撮影監督 今井哲郎
音楽 清塚信也
出演 伊藤淳史、内山理名、吉岡秀隆、橋爪功、桜田ひより、飯島寛騎、宮川一朗太、六平直政、大塚寧々

『皆殺し映画通信/地獄へ行くぞ!』
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5/22(土) @Loft PlusOne West

 

監督・脚本大森研一、という名前にピンときたあなたは本ブログ読者の優等生。そう、大森研一といえば『海すずめ』、『やっさだるマン』、『ふたつの昨日と僕の未来』と瀬戸内海沿岸地域を舞台に地方映画を作りつづける瀬戸内海映画の雄。本作ではついに監督の出身地でもある愛媛県伊予郡砥部町を舞台に選んだ。砥部町といえば二百年の歴史を誇る砥部焼で有名。というわけで砥部焼で東京オリンピックの聖火台を作ろうという一大プロジェクトにまつわる家族の再生のストーリーを……

まさかのオリンピック便乗地方映画である。ご多分にもれず当初は2020年公開予定が一年ずれ、さらに一部地域緊急事態宣言下というギリギリの状態での公開を余儀なくされることになった。それにしてもそんな話あったっけ? 新国立競技場に常設の聖火台がなく、仮設のものを設置しなければならなくなったのは事実である。でもそれを焼き物、さらには砥部焼でなんて話はあるのか? と思ったら、実はえひめ国体で砥部焼の聖火台が使われたことがあったらしく、それを見た大森監督が「なら東京オリンピックでも……」と妄想して書いたミュージカル舞台『シンパシーライジング』を地元松山で公演、それが晴れて映画になったということらしい。もちろん砥部町全面協力なので、劇中に登場する巨大聖火台も砥部焼で実際に作ってしまっている。「なんなら本番で使っていただいても……」とかついで押しかけそうな勢いだ。一方でまったく協力していないのがオリンピック組織委員会のほうで、劇中で堂々と「オリンピック聖火台デザインコンペ」とか謳ってるの、利権にうるさそうな方面からクレームつけられたりしないのかちょっと心配だったり。

 

 

さて、物語の主人公はいつも苦虫をかみつぶしたような顔をして怒鳴ってばかりの〈りゅうせい窯〉の主人高橋竜青(伊藤淳史)。妻(内山理名)と娘の萌(桜田ひより)、それにイケメンバイト(飯島寛騎)で磁器を製作している。竜青は名人高橋竜見(橋爪功)の息子だが、「基本もできてないくせに小手先のことばかりやりたがる」と自分を認めてくれない父親のもとを飛び出し、新しい砥部焼を作っている。つまり伝統派と革新派の対立というよくあるパターンなんだけど、映画の中では竜青の「新しい砥部焼」がなんなのかよくわからないので、頑固親父と駄目息子のどっちもどっちな対立にしか見えないのであった。竜青、バイトのことを名前で呼ばずにかたくなに「バイト」としか呼ばない頑迷さを発揮し、萌から「考えが狭い」と、自分が父親にぶつけたのと同じ非難を向けられたりしている。似たもの同士の親子ってことなのかもしれないが、それだと基本ができてないだけ竜青のほうがダメだということに……

さて、町長も参加した窯元組合の集会で、オリンピック聖火台を作るためのデザインコンペを開くことになる。いやコンペはいいけど、それが利権集団に採用される可能性はあるの?とぼくも抱いた当然の疑問を組合員たちがぶつけると、そこに真打登場とばかりに遅れて出てきたのが高橋竜哉(吉岡秀隆)である。竜青の長兄であり、父の窯〈高橋窯〉の跡継ぎとして期待されていた天才だったのだが、父と衝突して故郷を捨て、いまでは新進気鋭の陶芸師として名を轟かす某美大教授。東京オリンピック関係の仕事もしているんで、まあぼくのほうから言っておけばコネでなんとでも……まあオリンピックなんてそんな世界ですよねー。

 

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tags: オリンピック 今井哲郎 伊藤淳史 六平直政 内山理名 吉岡秀隆 大塚寧々 大森研一 宮川一朗太 愛媛県 東京オリンピック 桜田ひより 橋爪功 清塚信也 町おこし 砥部町 飯島寛騎

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